第40話 海辺のあばらや

文字数 765文字

 海辺の家に来てもうすぐ3週間が経つ。お嫁さんが実家から戻ってきた。産まれて半月の赤ちゃんを連れて。私が自分の家に戻る日も近い。
 しかし、夫と離れて3週間。いなくてもぜんぜん平気なんですが……夫はさすがに困っているようだ。食べることに。野菜炒めと、きんぴらを作ったというメールはあった。私が留守にしてすぐに、便が出なくなった、と。情けない。息子は料理、洗濯、掃除は母よりこだわる。

 こちらに来てから『材料集め』を10話と『落下』を投稿した。手直ししたものが多いが、明け方ひらめいて出来上がったものもある。おかげで退屈しなかった。
 しかし、もう出ない。何も浮かんでこない。空っぽだ。

 朝夕、海岸に行く。歩いて5、6分だ。その途中に、あばらやがある。荒れ果てた家、やぶれや、破屋(はおく)。到底、人は住めないだろうと思うが。時々、じいさんが家の前に座っている。植木がかなりある。狭い歩道の半分まで伸びている。荒れている。自転車のタイヤが放置されている。壊れた傘が投げてある。食べ物のビニール袋が投げ捨てられている。
 その前を通ると……何度も会ったが、昨日は通り過ぎたあとにブツブツ何か言った。聞き取れなかったが怖かった。
 息子より、孫の方が知っていた。隣のマンションの前でも座っているらしい。海岸やスーパーでも。孫は、ホームレスという言葉を使った。
 お嫁さんに聞いた。あばらやに住んでいるが水道も止められている。隣の人に貰うらしい。時々家の前で体を拭いている。ずっと以前からいるようだ。詳しくはわからない。ブツブツ言ってるので怖い。

 今日もいたら観察してしまおう。ひらめかないだろうか?
 このじいさんの過去を想像する。
 海辺のあばらやに住み着く老人。いや、まだ老人ではないのかも。地元の人ではないのか? 想像して創作する。海辺でひらめいた物語。
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