第117話 教育

文字数 1,853文字

 施設で働いていた職員さんが辞めた。大学生ふたりの息子がいるシングルマザーだ。旦那さんとはギャンブルが原因で離婚した。何度も土下座して謝られたが治らなかった。上の子は理系なので余計に学費がかかるという。ダブルワークしなければならないので辞めていった。
 
 ブティックで働いていた頃のスタッフも教育熱心で、
「Cさんは教育にお金かけなさすぎ」
とよく言われた。皆、大学は当たり前。だから子供の話は苦手だった。

 長女の私立高校入試の前日に、夫の妹家族が泊まりに来たいと言う。次女がマーチングバンドの全国大会に出場するので見に来る。泊まるのは妹夫婦と長女の3人。泊まるのは狭いマンション。
 普通、娘の高校入試前日に泊まらせるか? 客間がある家ではない。夫が電話を切ったあと、呆れた。怒れば喧嘩になるから怒りはしない。来れば、もてなしはするけど顔には出るだろう。来た方も恐縮するだろう。そこらへんが夫にはわからないらしい。 
 結局夫は明け方パーキングまで迎えに行き、私と娘は時間差で顔を合わせることなく家を出た。

 次女は中学では部活に熱心で、勉強してると思ったら寝ていた。吹奏楽部で、朝練、昼練、放課後、土日も長い休みも練習。3年になっても秋のコンクールが終わるまで引退できなかった。塾に行くまでの時間に眠ってしまい起きられない。しょうがないから家庭教師を頼んだ。短期間集中的に5教科。来たのは女性の大学院生。
 熱心だった。熱心に社会ばかり教えていた。身内親戚は皆法律関係の仕事だそうだ。家庭教師代請求の封筒を見てビックリ。450,00円也。間違いを指摘できなかった。

 私立のすべり止めの試験も近い日、先生は来なかった。連絡つかず。会の方に電話をしても、しばらくわからなかった。ようやく返事が来た。病気で地方の実家に帰り入院していると。詳しくはわからないが、こちらの入試はどうなるのよ? 1番大事な時期に代わりを寄越すこともなく、怒りを通り越して笑えた。
 入試は終わった。落ちる人がいたかどうかはわからないが、めでたく合格。
 都立入試も終わった頃、先生は家庭教師代を取りに来た。また450,00円だったかは忘れたが。お礼に用意したお菓子も受け取り帰って行った。

 子供たちはとにかく勉強しなかった。勉強しないで平気……ということが理解できない。夜、隣に座って付き合った。3人みれば数学も思い出す。歴史も理科も歳をとると面白くなるものなのだ。勉強したのは母の方だった。
 
 この間、テレビのクイズの計算問題をふたりの娘はできなかった。掛け算、割り算を先にやることを忘れていた。夫はゴルフのスコアを携帯の計算機を使う。私は100以上の話のアクセス数の合計を目で追うだけでできるけど。まあ、1、2、3から5くらいまでの合計だから。

 ブティックのスタッフは皆、優雅だった。パートなのに店の服を買って着ていなければならない。給料の2割から……3割……から5割。そういうものだとは知らずに入った。生活のために働くなら他へ行く。入って実態のわかった人はすぐに辞めていった。
 皆、リッチだった。庭のある家、旦那様の収入は多い。子供の就職先には大きな会社か公務員を希望していた。
「Cさんの旦那さんのような小さな会社だと……」
「息子さん、自衛隊入れなよ。お金貯まるらしいよ」
思えば失礼なことを言われた。かなりムカついたんですけど。

 そちらの長男さんが有名大学に合格したときは、出番だった私に、抱きついて泣いていた。
 公務員になるための学校にも通って市役所に勤めた。会社のために自分の時間がなくなるのはいやだからと、公務員を選んだ。
 次男さんは自分探しだと、中退してしまい、嘆いていた。

 もうひとりのスタッフは私より年上だった。入った時は安心するくらい普通だった。だんだん、着る服が甘い色になってきた(?)
 午後の休憩時間に髪を巻き、まつ毛をカールしていた。休みの日に、小学生の息子さんから電話が来た。
「ママ、いますか?」
そんなことが何度かあった。
 彼女はやがて、自分でブティックを出した。噂によると、その後離婚し、子供は父母がひとりずつ引き取った。その後、元旦那は亡くなった。店はこのコロナ渦で続けていられるだろうか?

 前述のスタッフの旦那さんは商売がうまくいかなくなり、家まで手放し離婚した。公務員になった長男は市役所を辞めてしまった。音信不通だという。中退した悩みの種だった次男の方は結婚し子供ができた。
 たまに会えば、孫の話に花が咲く。

 
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