第14話 ゴルフ

文字数 937文字

 何年か前からゴルフをやろうと言われていた。老後に同じ趣味もなく、捨てられたら困る……と冗談で。球技はダメ。テニスはサーブが届かない。学生時代、ソフトボールもバレーボールも、体力測定のボール投げさえ線まで届かなかった。京都のかわらけ投げも私のだけは飛ばずに落ちて行った。

 母の日に、夫はゴルフクラブを、ハーフセットをプレゼントしてくれた。やらないと言っているのに……嬉しくないプレゼント。練習場に行ったって、みっともないだけ。ふたりでコースに出るのが夫の夢だという。

 すぐそばにゴルフスクールがある。やるからには基礎から先生について……大人になって習ったのは、水泳、テニス、社交ダンス、ピアノ、電子ヴァイオリン、どれも続かなかった。
 夫もスコアが伸びないのでふたりで通い始めた。3ヶ月はつまらなかった。元々好きで始めたわけではない。90分が長い。でもコーチは優しい若い男性だ。生徒はほとんどが年配の女性。これが皆、高級車で来ている。ポルシェで帰ったのは隣にいた女性。ミニスカートで打っていた。夫は女性のコーチ。楽しそうだ。レッスン代はかなりの負担に。

 静止しているボールを打つのになぜ空振りする? フォームを直された。若い男性のコーチが
「失礼します」
と言ってばあさんの腰に手を……
 上体動かすな。目線、動かすな。頭、動かすな。腕は……呪文のように唱えてから打つ。
 ボールはそこにあるのだ。やがて、目を閉じて打ったって当たる。閉じた方が当たる。
 月の終わりにテストがある。パッティングやアプローチ。パッティングは夫とたいして変わらない。ロングパットがまぐれで入る。

 習い始めてから5ヶ月が過ぎた頃、初めてのラウンドに。夫とふたりで。
 ひどいものだった。走りに行ったようなものだ。後ろに迷惑をかけてはいけない、とクラブを持って走った。よく最後までやり終えたものだ。
 1度だけ、すごいことが……グリーンのかなり手前、ここは7番アイアンではダメか? でもカートはずっと遠く。夫も遠い。下手っぴは何番で打とうが下手っぴ。格好だけは付けて一応旗を狙った。コン、コロコロ……消えた。あれがチップインというものか。打った下手っぴは小躍りした。12打目だろうが。
 
 何事も経験。材料が増えた。





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