第150話 どんな時も慌てるな

文字数 1,331文字

『どんな時も慌てるな。慌てると動きに無駄が生じる。無駄はすなわち隙となる。状況に惑わされずに常に冷静であれ』

 あるファンタジー小説から。戦う場面が多い。何気なく読んで通り過ぎてまた戻った。誰かと戦うわけではないが……
 メモに書く。
 戦う相手は自分自身。歳を取り……老いていく……歳を重ね、動きが緩慢になっていく自分自身。
 
 ゴルフレッスンから帰り、狭い玄関でゴルフバッグが傘立てをひっくり返した。バッグに傘が1本くっついてきて取れない。手提げバッグからは水筒をつかみそこねて落ちた。足のすぐそば。当たらなくてよかった。

 この間もホットカーペットの角のスイッチに足の小指をぶつけ、まだ靴を履くと痛い。履かないわけにはいかないし。
 時期が過ぎたのにホットカーペットをしまわないのは、孫たちが来てうるさくするからだ。うちは4階。下には、おばあちゃんよりもっとおばあちゃんが住んでいるのよ、ドタバタ跳ねないで……一軒家に住む孫たちはわからない。
 思えば、階下にはかなり気を使いながら3人の子を育てた。住んでいるのは口うるさいご婦人。ピアノの音がうるさい、と乗り込んできたこともあった。当時我が家にはまだピアノはなかったけど。音は不思議な伝わり方をするようだ。
 そのご婦人も今では押し車を押している。ひとりで歩いているところは最近は見ない。この方は自転車には乗らなかった。私もなるべく歩くようにしているが、歩いていても衰えていくのか? 詳しくは知らないが。

 まだ仕事をしているので頭の中もイメージして動かねばならない。それが、忘れるから困る。先日も入浴させたあと……服の用意を忘れていた。ごめーん、と謝って済む方でよかった。バスタオルを3枚掛け居室に走る。投稿の内容なんて考えていてはいけない。反省!
 
 携帯のパスワード、パスコードを1度で正しく打てない。年寄りの指は乾燥しているから? 年寄りは『触れる』タッチが苦手で『押して』しまうのだとか。表紙を開いてしまうことも多い。触れているつもりなのになぞっているから(スワイプ)、ややこしくなる。

 買い物に行けば買うものを忘れる。思い出せない。メモに書いてもメモを忘れる。携帯のメモに打てばいいのに。
 家にいても無駄な動きが多い。取りに行って忘れる。意識をすれば違うのか? 料理をふたつ、同時進行できなくなった。焼きながら炒める……無理だからひとつ消す。シフォンケーキの種を10分で作り、オーブンに入れた腕は健在か?

 慌てるな、と夫は言う。
 オレになにかあっても慌てるな!

 慌てたのは母が50歳で急死した時。
 夫の両親が続けて亡くなった時。
 娘が食器棚に頭を突っ込んだ時。
 娘が心臓の手術をした時。
 犬を看取った時。
 父は認知症で長かったので、慌てることはなかった。夜中の電話に慌てることはなかった。

 慌てません。なにかあっても。
 でも娘がバセドウ病かも。残念、しこりもあるって。本人は慌てない。

 なるべく起きませんように。地震も事故も病気も……

 大震災の時は(震度5強)、店で割れたガラスなんか掃いてて、店長に怒られた。
「なにやってんのよ!」
 頭に売り物のセーター被せられて非難した。

 状況に惑わされずに常に冷静であれ!

 





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