第159話 死語になった

文字数 1,041文字

 心配していた通りになった。二十歳の職員が異動した。去年入ってきた新人が、育って2年目を迎えたら、ひと月休みひと月出てきて異動になった。なにがあったのやら? 誰にも挨拶なしだったそうだ。 
 今の職員はちょっと気が強い。そうでなければ続かないが。しかし新人を育てなければ、いつまでも超勤がなくならないのに。
 月末には、ひとりの職員が、またおかあさんの介護の件で実家に帰るので、連続して休みを取る。沖縄の離島だ。シフトは回るのか?

 先日エレベーターで若い周辺業務の男性に会った。高校卒業してから4年目になると言う。
「介護職やったら?」
「大変なの見てますから」
でも……大の男がいつまでも最低賃金のパートでいいのか? 君より年下のO君は頑張っているよ。母ひとり子ひとりだから……正社員になればボーナスも出るし、彼は車もバイクも買って地道に貯金もしている。 

 O君は面白い子だった。工業高校出身。
 職場に、基本お金は持ってこない……のだそうだ。月末になると昼食を抜いたりしていた。
 趣味はアニメ。入った年にコミケ……とかに行くので3日休んだ。車の中で寝る。連続休暇は許されない雰囲気だったが、新人だし、それくらいの楽しみも許されないなら、続かないよ……なんて思っていた。そのあとはコロナ禍で中止になった。今年はどうするのだろう?

 私たちパートは頑張っていたO君に食べさせたくて、スタッフルームにお菓子を置いてあげたものだった。
 その、ヒョロヒョロだったO君が太ってきた。三交代は太るのか?
 同じ階なのにほとんんど会わなくなってしまった。うちのユニット、人が足りないからヘルプに来てほしい。

 高校からバイトしていた女性も二十歳になったが、いまだにバイトだ。午後6時間の周辺業務。こちらも介護職はやりたくないらしい。バイトでいいのか? 親はなにも言わなくなったのか?

 我が娘たちも仕事が続かなかった。今では永久就職。

 結婚はしたい、でも仕事は続けたい、あるいは、結婚しても家事は折半、子供は欲しくない……永久就職という言葉はもはや死語になりつつある。そもそも、ひとりの男性に、永久に雇われる、という感覚を、現代女性は持ち合わせていない……

 施設の女性職員は独身が多い。超勤が多いから年収は500万を超えるという30代女性は、
「私、結婚しませんから、年金当てにしていませんから。この国で子供育てる自信ないです」
クールだ。私はこの女性が恋に落ちるのを密かに期待しているのだが。

 永久就職も相手次第。

 



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