第31話 ハローワーク

文字数 1,182文字

 勤めていたブティックが倒産した。もう年齢も年齢だ。もう働かなくてもいいだろう。仕事もないだろう。あるとすれば介護か清掃。もうひとりのスタッフはハローワークに通いながら介護士の資格を取った。

 私は働く気はなかったが就職活動をしなければ失業手当はいただけない。毎月ハローワークに行き、パソコンで求人を探す。しかし、働いたとしてもすぐに定年。係の人も、ないですよねー、と簡単だった。
 就活の記録を書く。募集広告を見て一応電話する。年齢を言うと断られる。和菓子の販売があったが、近くの店舗ではなく、電車を乗り継ぎしていく支店だった。断りホッとした。新しくできた病院の清掃の面接にも行った。受かれば理由をつけて断った。
 知人の会社の名前も借りた。とにかく用紙に記入しなければ。そういえばブティックにいた時も客に頼まれたことがあった。店に面接に行ったことにして……

 新聞に入ってきた募集のチラシ。すぐ近くに建てている介護施設。開設までに半年ある。週3日、朝7時から10時までの3時間。資格なしでも、配膳等の手伝い……洗濯、掃除。
 家から近いのが魅力だった。時間が短いのも。夫が出勤後に出ればいい。小遣い稼ぎにでもなれば。軽い気持ちで面接に行った。受かった。半年後のことだから……いやならすぐにやめればいい、と安易に考えていた。続くとは思わなかった。
 ハローワークの方も喜んでくれた。歳だから、2か月延長分の手当もいただいた。支払われなかった給与の保証も、ずっと遅れたがいただいた。

 やがて介護施設がオープンした。3日間の研修。9時から5時まで? まあ、いいか。
 いろいろな研修。3時間の資格なしのパートには関わることもないだろうが。ベットのマットレスの話、車椅子の種類、動かし方、パットの種類、ふたり組になり実際に当ててみる。風呂はリフト浴の実習。網のようなリフトに座らされ浴槽まで移動させられる。楽しかったが。シーツ交換、当面関わり合う仕事はこれくらいだった。

 オープンしたての頃は入居者よりもスタッフの方が多かった。配膳もシーツ交換も3、4人で。しかし、どんどん入居者が増えるとスタッフは分散された。その後はずっと人手不足だ。配膳はひとりで。隣のユニットにも手伝いに行かねばならない。
 職員が排泄介助の間、私は見守り。当時はまだ元気な方がいた。廊下に出て行ってしまう。車椅子から立ち上がってしまう。ひとりで見守るのは大変だった。

 5年が過ぎた。時給はほんの少しだが上がった。処遇改善手当というものが、時給に上のせされる。さらに早出手当が1日400円加算される。
 14年勤めていたブティックは1度も昇給しなかった。賞与がほんの少し出たのは最初の夏だけだった。
 今の仕事は、施設からユニフォームが貸与される。仕事は昼までなので昼食代がかからない。なにより服を買わなくてすむ。
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