第153話 大学

文字数 1,379文字

 大学とは無縁だったが、近くに大学ができた。
 できるまでには数年かかった。
 高齢化した、ゴーストタウン化した、駅から歩いて20分はかかる街に大学が建つ!
 それに先立ってだか、関係ないのかはわからないが商業施設ができた。スーパー、本屋、ファミレス、回転寿司、百均、ファストファッションの店。
 住宅も建った。マンションが。ワンルームマンションも。

 大学は川に面している。ウォーキングコースの川沿いがきれいになっていく。長い期間をかけて工事が行われ橋までかかった。おまけにカヌーの船着場もできるという。カヌーなんて見たことないが……
 バスの路線も本数も増え、周辺には活気が……

 完成した。オープンした。高層ではない。広々としている。囲いがない。自由に通り抜けできる。食堂もカフェテリアも利用できる。図書館も。まだコロナ禍なので予約制だが。

 大学とは無縁だった。高校受験は都立のみ。私立に行ける余裕はない。高校卒業したら就職が当たり前の家庭。高校は都立高でも進学する生徒が9割。当時は高卒でも大企業から募集がきた。最初に受けた大手の企業は落ちたけど。有名な、上場していない洋酒の会社。
 面接で言われた。おとうさまの会社は聞いたことがないですね……

 おとうさまは小さな会社の靴職人。尋常小学校を卒業すると田舎から出てきて、手に職をつけた。東大のお医者様のところへ通い、足の不自由な方の靴を作った。娘ふたりを大学に行かせる気持ちも余裕もなかった。

 入社した保険会社では、部長も課長も主任も東大卒だった。女子社員はまだ高卒が多かった。機械化が進む前、事務員の募集は多かった。給料に男女の格差が歴然とあった時代。それに疑問も感じていなかった。

 財形貯蓄の発売された年。課は忙しく毎日残業。忙しくても帰るものは帰る。大卒の係長は、「僕はニューファミリーですから」と、家庭を大事にし早く帰った。それが責められるような空気だったが。
 大卒の女性、短大卒の女性がひとりずついたが、よく休み残業はしなかった。帳簿を任されたのは私ともうひとりの高卒の女性だった。学歴と給料の差は歴然としていたが。

 
 長男が幼稚園の時からの付き合いの友人がいる。上ふたりのときは特別親しくはなかった。互いに6歳離れて3人目ができ……ちゃった。私はようやく身軽になりテニスサークルに入り、楽しんでいた矢先のできごと。あーあ、と思ったら、彼女もあーあ、だった。さらに彼女は私より6歳年上。39歳だったから出産間際は中毒症になり大変だった。
 
 わが家の3人目の娘は重い心臓病で産まれた。家族には試練だった。
 大勢が娘のために祈ってくれたが……そんなこんなで手術して完治した子は、成長すれば遊んでばかり。勉強もせずきちんと就職もせず、所得税や住民税はたいして払わなかったが、消費税だけは相当払ってきたはず。
 兄姉も勉強しなかった。学歴の話になると母は小さくなっていた。教育費はかからなかったが……

 友人は3人の息子を大学に行かせ、留学させ、ひとりは会計士になるまで何年もバイトもさせず合格させた。かかった金は桁が違う。長い期間、一緒にショッピングに行ってもなにも買わなかった。母親の頑張りに敬服した。

 私が勤める介護施設でも新卒はほとんどが大卒か専門学校卒ばかりになった。
 選んだ仕事だ。続いてほしいと思う。

 

 
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