第77話 団塊の世代の子供を育てた昭和の母親たち

文字数 1,616文字

 先日読んだ小説。昭和の貧しい時代の母と兄妹の物語。父親は……いなくてもいい。
 一気に読み、涙腺が緩み、星を大盤振る舞いしてしまった。
 
 母と兄妹。貧しい時代、中学生の息子は新聞配達をして母親に給料すべてを渡す。息子は出来がいい。中学を卒業すると就職しようとするが、先生に進学を勧められる。母は新聞配達の給料を貯金していてくれた。
 高校の修学旅行は諦めていた。小中学校も行かなかったが、友人が、友人たちが金を出してくれた。一緒に行きたい、思い出の中におまえがいなければ、と。
 息子は夜間の大学に通い、働きながら頑張った。結婚して、出世して孫の結婚式……母は認知症になっていた……

 いくつか、そんなエッセイを読んだ。息子を育てた母親が認知症になる。息子と認知症の母の話は多いようだ。
 
 実は、夫も酔うと話す。団塊の世代より若いが。中学の3年間、朝学校へ行く前に牛乳配達をしていたと。だから、大きな犬は苦手だ。吠えられたから。吠えられたけど、その犬は河原で射殺された。狂犬病だったのか? またその話? と娘たち。
 夫が熱を出した日はおかあさんが代わりに配達したという。夫は母を語る。田舎の町から出たこともない。畑仕事に家の事、母はいつでも起きていた。祖父にいじめられていた、祖父は時々暴れた。自分はかわいがられていたので、母を庇い祖父に食ってかかったと。
 母は60歳前に病気で亡くなった。親孝行はこれからだったのに。

 さて、団塊の世代(1947年〜1949年生まれ)の子供を育てた母親はどうしているか? 生きていれば95歳前後か。
 私は短時間の資格なしのパートだが、介護施設で働いている。90歳過ぎている方はザラだ。女性の比率は高い。8割が女性だ。昭和一桁生まれ。大正生まれの方もいる。
 その母親たちの息子はどうしているか? コロナ禍だから今は面会に来られない。
 ある女性は胃瘻(いろう)になった。決断を迫られた時に息子さんは、自然に看取るということを選ばなかった。コロナ禍で面会できなくてよかった。母親はずっと目を閉じて口を開けている。日に2回、栄養剤を注入される。起こされるのはその前後だけだ。
 部屋では童謡をかけている。

 大変な時代に子供たちを育てた母親たちが、共同生活をしている。介護される期間は、息子を育てた期間よりも長いかもしれない。
 リビングではテレビが大音量でかかっている。ずっとわめき続けている方がいる。学生時代に戻った方もいる。よそのユニットの女性が車椅子を自走して何度もやってくる。
「私、泥棒なんかしません」
真顔で言う。しっかりした女性に見える。以前来客用のエレベーターが開いたときに、下に降りて出ていってしまった。大変なことになったが、かなり離れたコンビニで保護された。

 職員は半袖のユニフォームの下に長袖のTシャツを着ている。臥床、離床させるときに、引っかかれるようになった、アザが絶えないという。
 優しい女性の職員だ。穏やかな口調で接している。独身で、すでにマンションも購入済み。遠方だが……おかあさんがワクチンを打って血栓ができた。半年入院しているが在宅介護になる。面倒を見ている姉にも仕事がある。彼女は2ヶ月休暇を取り実家に帰ることになった。

 代わりの職員はこないだろう。コロナ禍でも人手不足。また超勤が続くのか? 私には影響はないが。
 過酷な介護現場。パワハラで関連施設の長が処分された。
 
 また介護施設で殺人が?
 
 夜になると帰宅願望の女性が立ち上がろうとする。夕食前。車椅子の方だ。立ち上がれば危険だ。若い男性職員がそれを宥める。何度も同じことの繰り返し。向こうでブツブツ不満の声が。配膳が遅くなる。
「なまじ立ち上がれるからタチが悪いね」
聞こえるように女性入居者から陰口が。
「うるせえなッ」
男性の入居者が怒鳴る。若い職員はムッとした。怒鳴りたいのはこっちだよ。しかし、敬意を忘れてはならない。人生の先輩だ。

 
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