第67話 ストイックだけど

文字数 1,186文字

 今月から新しく入ってきたパートの女性、Jさん。私の娘より若い30歳のフィリピンの方、結婚している。
 以前、フィリピン人の派遣の方がいたときは大変だった。年配のベテランの派遣さんは若い女性のリーダーの言うことを聞かなかった。日ごとに雰囲気が悪くなっていった。派遣さんはすぐに施設長に苦情を言う。リーダーには、
「あなた、外人だと思ってバカにしているんですか?」

 食事介助も強引だった。
「口開けて。口開けて」
と怒鳴っていた。挙げ句の果てにいきなり休む。もう、契約更新しないとなると、休むことが多くなった。朝、出勤して来ない。電話も来ない。夜勤が超勤を。遅番に電話して早く出て来てもらう。そんなことが当たり前になっていた。

 だから、いい人ならいいなあ、と思っていたのだ。Jさんはマスクをしていても目を引く。色が白い。半袖のシャツから出た腕の白さ……

 パートのおばちゃんたちは話す。スペイン系? スタイルいいよね。

 フィリピンは昔、スペインの植民地だったから、その血筋を持つ人には、美しい人が多いのだとか。

 私が働き始めた5年前は若い女性が多かった。20代のかわいい人、きれいな人が多くて驚いた。男性は喜んで言った。
「レベルが高いですよね」

 その子たちはどんどん辞めていった。リーダーの女性も辞めていった。今では平均年齢はいくつ? 若い子の割合は少なくなってしまった。

 Jさんは以前はスーパーで肉を切っていた。バイトは切ってはいけないのに切っていた。日本人ではないので時給も安かった。Jさんは週4日の1日7時間勤務。あとの2日はおじいさんの介護をしに行く。
 日本語に不自由はないが漢字は読めない。しかし、iPadの漢字は位置で覚えた。記録することは多くはない。打つのは早い。
 シーツ交換もきれいにできる。入居者の男性にバカヤローと言われても全然平気だそうだ。

 Jさんに入浴介助を教えた。
 介助しやすい服に着替える。見てびっくり。濃いピンクのシャツに、体の線がそのまま出るレギンス。それも派手なボーダー柄。
「それでやるの?」
思わず言ってしまった。
「まずいですか?」
「……私もピンクだし、ね」

 かつて、お尻と腿は別なのよ、と言った人がいた。こういうことなのね。羨ましい体型。しかし、我がユニットの入居者たちに関心はない。若い男性のスタッフもいない時間。見たらどんな反応をするだろう?

 彼女は、米は玄米、パンはときどき、野菜に魚を少し、菓子は食べない。ジュース、コーラは飲まないで水を飲む。毎日体操とジョギングは欠かさない……
 なるほどね。その体型を保つためならね。先にその体型にしてくれるなら、私も努力します。

 仕事も続いてくれたらね。根性はありそう。ストイックな人は好き。反省しよう。私も……

 しかし、そんな努力を吹っ飛ばすようなことを彼女は言った。
「毎日飲みます。赤ワインを1本」
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