第49話 男友達 2

文字数 1,004文字

 飲み歩いた時期があった。母が亡くなったのは私が二十歳の時。寂しかったのだろう。社交ダンスを習っていたのでその仲間とよく踊りに行った。
 酔って電話ボックスに財布を忘れた。2万円入っていた。戻らなくても困りはしないが……
 交番に行くと届けてくれていた。面倒くさい。警察署に行き、届けてくれた人に連絡をし、会って書類を書いてもらい、また警察署に行かなければならない。面倒くさいが、順番にやらねば。

 拾ってくれたのは私より5歳くらい年上の男性だった。勤め先は六本木のレストラン? 電話の声はよかった。声は素敵だった。人もよかった。わざわざ電車に乗り私の地元の駅まで来てくれた。拾ったのはその駅の電話ボックスなのだ。彼はその駅に友人がいた。
 駅で待ち合わせをし喫茶店に入った。コックさん、なるほど太め。人のよさそうな……話しやすかった。新潟から出てきてコックになった。店は……
「店は有名だよ。芸能人が食べに来る。松坂慶子が来た」
そう、本で調べた。庶民には手の届かない高級レストラン。私は気に入られたようだ。喫茶店代も払ってくれ、落とし物を拾った礼は受け取らず、そのあと、近くの有名な神社に行った。
 カッコいい人ではないから上がることもなく、気取ることもなく普通に話せた。ケーキ作りが趣味の私にいろいろ教えてくれた。夕飯もご馳走になり、次は映画の約束をした。
 この人と、観た映画は思い出せない。それまで男性と観に行ったのはミア・ファローの『フォローミー』素敵なデヴィッド・ヘミングスの『サスペリア2』これもデヴィッド・ヘミングスの『パワープレイ』あとは『ベルサイユのばら』
 それ以降は夫とだ。夫は映画館では酒を飲みトイレに行き眠る。

 レストランに食べに来いと言われ、姉夫婦と行った。六本木など滅多に行かない。小学校の友達が通っていた私立の中高を案内された頃は、昼は静かな街だった。
 レストランは小さかった。おまかせで出てきたコース料理。ワイン。会計はかなり、かなり安くしてくれた。彼が負担するのだろう。
 
 彼は、ケーキを作って持ってきてくれた。好意がわかった。働き者で優しく人がいい。友情なら続いただろうが、好意が負担になる。そのうち、頻繁にかかってくる電話には何度か居留守を使った。わかったのだろう。最後に会って駅で別れる時、屋台の焼き芋屋で最後のプレゼントを買ってくれた。

 誇り高き男はそれきり連絡してこなかった。


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