第38話 家族

文字数 1,290文字

 7歳の孫がおにいちゃんになった。数年前も喜んだ。孫は期待し兄になる覚悟もできていたのに、ママのおなかの中で亡くなっていた。そのあとは子宮外妊娠。もう、ひとりっ子でもいいのでは、と口には出さないが思っていた。

 妊娠初期はつわりがひどく痩せた。息子は仕事から帰ると台所仕事。後期は妊娠糖尿病とかで心配した。予定日を過ぎると胎児に影響が出るので、遅くなることはない、と聞かされていたのに、陣痛がこない。促進剤を使っても……体力がなくなるのでストップ。心配した。ようやく出産した。コロナ禍で立ち会いも面会もできない。産んだあとには1500ccの大量出血。

 上の子の出産の時には息子は立ち会った。仕事の帰り、食事も取らずに何時間? 明け方生まれた。たいして休みもせずにまた仕事に。
 出産して半月ぐらい経った頃、息子が出勤時にバイク事故を起こした。車が寄ってきたのでよけて転倒。接触していないので息子にも2割の過失が。よけたのが悪いらしい。よけずにぶつけられていれば……?

 息子からの連絡は私にきた。お嫁さんは産後半月だ。私が動かねば。あたふたとタクシーを呼び病院へ。ショックで母乳が出なくなるのでは? と心配した。暑い夏に手術。狭いロビーで長時間待った。幸いにも正座ができないくらいの後遺症だけですんだ。
 この息子、病院の世話になりすぎだ。まずは気胸。ひとり暮らしの時、電話がきた。胸が苦しい……あれは入院が長かった。病院は職場のそばだから、バスと電車を乗り継ぎ乗り継ぎ。
 次は手を切った。仕事中、頭にきて、近くにあった紙の袋を叩いたら……中にガラスが……手術。この時には今のお嫁さんが、まだ紹介はされていなかったが、世話をしてくれたのだそう。
 結婚してからバイク事故、そのあとにはヘルニアの手術。付き合いで保険に入っていてよかった。

 手術から1ヶ月くらい、出産から1ヶ月半ほどで親子3人は家に戻った。息子は杖をつき、当分は休職。お嫁さんは、こちらも産後が辛かったようだ。娘と、交通事故にあったみたい、だと話していた。交通事故? 安産の私には? まあ出産年齢が違うが。
 それなのに、3ヶ月もすると短期の仕事を探し働きに出た。生活が心配だったのだろう。息子が日中育児をした。お嫁さんの弁当も作っていた。息子は通院の日は孫をあずけにきた。帰りには、おかずをたくさん持たせた。

 翌年仕事に復帰した。お嫁さんも孫が1歳になる前に保育園に入れ働きに出た。
 男の子はよく熱を出した。保育園から電話がかかってきた。私もちょうど仕事をしていない時期。自転車で25分の保育園まで迎えに行った。何度も行った。連れて帰ると熱は下がる。家の目の前が公園で助かった。祖母には楽しい3年間だった。私が笑うと真似して笑った。大袈裟に欠伸をするとやはり真似た。消防自動車が好きだから、近くの消防署まで歩いて見に行った。帰りにコンビニでお菓子を選んだ。長い時間かけてひとつだけ。
 孫は覚えていない。公園の前の家のことも保育園のことも。

 もうすぐ妹がやってくる。祖母は帰る。もう以前の家のように、簡単には会いにこられない。

 
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