第99話 骨になっても

文字数 1,550文字

 ある作者さんの長編小説の余韻が残っている。結ばれなかった愛、子供の頃からずっとお互いに思っていた。結ばれない愛だからこそ永遠なのだ。結ばれていたら、いつまでも愛は続かない。関係は悪くなり、同じお墓にだけは入りたくない……そんなことになっていたかも。

 何年か前、住んでいるマンションで男性の孤独死があった。続かなかった愛の終わり。妻と子供は出て行った。隣近所の付き合いがないから、それさえ知らない人もいるだろう。数日臭気がひどかった。私はネットで調べた。特殊清掃やひどい遺体の状態。それ以来、死んでも焼いてもらわなきゃ……死んで終わりではない。焼いてもらわなきゃ、と思うようになった。

 お墓……我が家にはまだ墓がない。姉は、父の墓に入ることができるらしい。義兄も共に。私は無理だろうか? 物理的にも。

 長男が小学校1年のとき、友達ができた。お寺の息子さん。大きなお寺さんの長男。跡取り息子。体格が良く勉強もできた。長女は乗馬を習っているという噂。馬も買ってあげたとか。なぜうちの息子のような自然児と仲良くなったのか? 誕生日会に呼んだ。得意の手作りケーキにあとは質素なものだ。彼は、当時我が家にはなかったファミコンをプレゼントに持ってきた。当時もその後もなかったものだが。息子が話したのだろう。買ってもらえない、と。 
 もちろん受け取れず、私はお寺までファミコンを返しに行った。出てきたのはおばあちゃんだった。夫婦は留守だった。もらってください、と言うのを断り返してきた。

 お寺の息子とは仲が良かった。どろんこになって遊んできたので、息子の服を貸した。小さすぎたが。後日、おかあさんがお礼に来た。洗濯した服と菓子折りを持って。忙しいのだろう。高級車で来てすぐに帰っていった。きれいな黄色のスーツ姿だった。

 彼は中学は私立に行き、付き合いはなくなった。寺の跡を継ぐのだろう。
 その寺からは電話が来たことがある。お墓を買いませんか? と。分厚い資料がポストに入っていたこともある。高額だ。

 施設のスタッフのおかあさんが亡くなった。お墓のことを尋ねると、高くて……後々のことを考えたら……いらない。散骨する、と言う。
 散骨……興味があるので少し聞いた。お骨はすでに粉骨してある。もう、小さな容器に収まっている。来月、海に散骨する。その日の天気でダメになる場合もあるらしいが。

 散骨か? ちょうどいい。息子は船に乗っている。遊漁船。ついでにササっとやってもらおうか? 夫は田舎に帰りたがっているから山にしようか? 山は所有所がいるからダメらしい。では川は? よく魚を獲りに行った川? そんな話を夫としていたら、
「ゴミで捨ててもいいよ」

 夫は若い時に指を切った。仕事で指先をほんの数ミリ切り落とした。痛い思いをした。特に不自由はなさそうだが。それでも労災でいくらか金が下りた。
 ある日、銀行から電話がきた。○○万円振り込みました……聞いてないんですけど。私に内緒にしておく気か? お金に苦労していた時代。妻に内緒にして夫はいったい何に使うのだろうか? 

 夫はすでに決めていた。田舎の墓をきれいにしようと。すでに両親は亡くなっていた。田舎の墓は広いが墓石は立派ではなかった。先祖代々……よくわからない。それを整理してきれいにした。妹たちには内緒だ。上の兄貴がやったということにして。妻は口を挟めなかった。
 
 父は母が亡くなった時に墓を買った。私たちの後は、子供たちは管理してくれるだろうか? それだけの費用を残せたとしても、その後は?
 全員まとめて入れるなら、すべて粉骨にして、湿気を含んだ骨は洗って乾かして……

『born、bone、墓音』という映画がある。観てはいないが興味がある。洗骨という儀式があるらしい。
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