第79話 原因は?

文字数 1,500文字

 背中が痛くなってからひと月以上経つ。以前にもこの痛みは経験済みだった。間違いないと思った。何度も経験した尿路結石。食生活か、ストレスか? 原因は? 

 ストレスなんてあるの?
 過去にひとつだけ思い当たることはあるけどね。
 いろいろな健康法に感化される男だ。健康雑誌の卵黄茶というものを信用した。卵黄3つを鍋で煮て、濃い、とてつもなく濃い煎茶を入れ混ぜたものを飲んだ。妻に毎日作らせ、しばらく続けた。そのせいかはわからないが、尿路結石で七転八倒。
 煎茶にはシュウ酸が100グラムに1000ミリグラム……だって。今検索しても、そんな健康法は載っていないけどね。

 その後も尿路結石は3度くらい経験した。しまいには衝撃波術……

 ところが泌尿器科で調べたが石はなく、腎臓癌、前立腺癌を疑われた。
 歳だから、それもしかたない。過去にも肺癌を疑われたことがあった。長女が結婚する前に。3回目に紹介されたのが癌研だったので、覚悟した。

 妻は、死なれた後の生活を考え生命保険を確認した。保険会社で働いていたから多額の保険に入っていた。よかったあ。
 
 癌研での長い検査。夫婦で来ているものが多かった。長い時間、妻は廊下の椅子に座り待っていてくれた。

 そして、先生の話。
 違った。肺癌ではなかった。拍子抜け。妻は喜んでくれただろうか? しかしなぜ、あっちの病院こっちの病院でわからないのか?
 とにかくよかった。帰りに妻と寿司を食べた。大奮発した。

 しかし、よほどのストレスだったのか、体に異変が。背中にブツブツが。片側だけ。妻は騒いだ。もう病院は懲り懲りだったが、かかりつけの医院に引っ張っていかれた。
 帯状疱疹。初めての症状。妻は以前働いていた店の客から聞いていた。見せられたこともあるそうだ。帯状疱疹でブティックに来るのか? 

 手当が早かったので飲み薬と塗り薬で済んだ。妻は背中に薬を塗ってくれた。

 君の手がいつも優しくて石鹸の香り〜

 もう、親の年齢を超えたから、いつ死んでもいい、なんて言っていたが、相当応えていたのだろう。

 腎臓といえば、副腎を片方摘出していたのだった。高血圧で、ずっと薬を飲んでいる。大学病院の先生に副腎に腫瘍があって悪さをしていると説明を受け、手術したのだった。あの時も妻は、毎日バスと電車を乗り継ぎ見舞いに来てくれた。だが、痛い思いをしたのに高血圧は治らなかった。

 数年後、仕事の区切りがつくと、下がった。やはり原因はストレスだったのか? 

 副腎? 副腎にはドラッグになる物質があるらしい。妻はドラマの見過ぎなのだ。 
『オックスフォードミステリー ルイス警部』でドラッグのために人を殺し副腎を摘出する……というストーリーがあった。
 調べてみると都市伝説がいろいろと。

 1週間後の検査の結果は癌ではなかった。では、腎臓に水疱があるのかも? と、また1週間後、エコーの検査をしたが見当たらず。
 妻には、ゴルフのやり過ぎでしょ、と冷たく言われ、整形に行けども、特に異常は見当たらず。毎日妻に湿布薬を貼らせ、サウナで温めマッサージを受けると少しよくなった。

 そして、妻とゴルフに行った。痛みはさほど感じず楽しかった。大振りできないからスコアは逆に良かった。ロストボールもない。妻との9度目のゴルフだ。妻も楽しくなってきたようだ。よかった。老後に同じ趣味を持って。

 また、撮った写真を印刷している。老けた姿は見たくないのに。ファイルにしたって、見せられる娘たちだって迷惑。
 マイナンバーの写真撮らなきゃ。プロに撮って貰えばいくらかマシ。遺影も撮っておかなきゃね。

 しかし、また……だんだん痛みは脇腹に。


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