第82話 世界で1番美しい少年

文字数 1,249文字

 かつて、年が変わる時にかけていた曲がある。マーラーの交響曲第5番の第4楽章『アダージェット』
 あまり評価されず忘れられた存在だった。しかし、映画『ベニスに死す』で使用されて以降一気に有名になり、その後はマーラーの代表作と呼ばれるようになった。
 監督の選曲は見事だった。まるでこの映画のために作曲されたかのような『アダージェット』の美しさ……ピアノの楽譜を取り寄せて弾いてみた。下手な腕だが雰囲気だけ。

 かつて『世界で1番美しい』と謳われ、人々を魅了した少年がいた。映画『ベニスに死す』タジオ役のビョルン・アンドレセン。
 ベニスを舞台に、初老の男性がタジオという少年の美しさの虜となり、身を滅ぼすというトーマス・マンの短編小説『ベニスに死す』(のちに、ベニスに死す症候群という言葉にもなった)
 1971年、映画界の巨匠ルキノ・ビスコンティ監督が映画化し、世界的なヒットとなった。タジオを演じたのが当時15歳のビョルン・アンドレセンだ。彼は『世界で1番美しい少年』と評され、無数のファンが夢中になった。
 特に日本での人気は爆発的で、来日してテレビCMに出演したり、日本語のレコードを出したり。漫画家・池田理代子の『ベルサイユのばら』の主人公オスカルは彼に触発され誕生した。ビョルンは時の人となった。

 当時、同性愛、それも美少年に対する愛を描くことは、タブーだった。製作側からは美少年ではなく美少女にしてはどうかという提案もあったそうだ。
 また、細部にこだわるヴィスコンティ作品を撮るには予算が足りず、俳優たちは全員普段のギャラの半分以下で出演をOKしたいう。

 45年も前……2本立ての名画座で、この映画が上映されると立見客まで現れた。まだビデオのない時代。美少年がアップされる場面を観客は知っていた。一斉にシャッターの音がした。
 ビデオが発売されると手に入れたが、今では観るデッキがない。観なくても頭に焼き付いている。

 さて、彼はその後どうなったか? ドキュメンタリー映画が公開されている。映画『世界で一番美しい少年』は、ビョルンの波瀾万丈の半生(転落と再生)を追った作品だ。

 観たいような観たくないような……パソコンが家にきて、ホームページで最初に検索したのがビョルン・アンドレセンだった。Windows95……全然ヒットしなかったが、今では変貌した写真まで載っている。


「あの映画に出演したことは後悔していないよ。でももし15歳に戻れるなら、NOと言うだろうね」

大人たちに性的に食い物にされた“世界一美しい少年”~『ベニスに死す』ビョルン・アンドレセン 【毒家族に生まれて】
50年前、「ルーヴルに飾るべき」とまで評された美少年の人生は、名声と引き換えに汚された。
https://www.elle.com/jp/culture/celebgossip/g35475943/born-into-a-whutering-family-bjorn-andresen-210216/?slide=1より引用

 
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