第139話 昇給

文字数 1,075文字

 昨日は呆れた。今の施設で働いて6年が過ぎる。毎年1度、湯が出ない日曜日がある。毎年事前に周知徹底され、入浴介助は前日までに終わらせる。そもそも、日曜日は洗濯場も休みなので、入浴しない日なのだ。
 ところが、人手が足りない。日曜日のパートは私だけだ。朝7時から10時までの3時間勤務。2ユニットの配膳片付け、シーツ交換2床。入浴ひとり。気合を入れて出勤しました。
「Cさん、9時からお湯が出なくなるので……」
「じゃあ、入浴は、なしですね」ラッキー!
「9時までに終わらせてください」
「!」
 何時に始めろと? 朝食を食べ終わったばかりの87歳の、血圧がひどく変動する持病のある高齢者。測ったら上が77。2度目はもっと低い。伝えたら、寝かせて足を上げて測れ、と。そのようにすればまあ、正常値になるが。

 ずいぶん前のリーダーは入居者のことを1番に考えていた。スタッフの粗が目に付いて辛かっただろう。神経が参って来れなくなった。今のリーダーはあまり言わない。本人も出勤が遅いし、やることやらないと陰口をたたかれているが、知っているのか知らないのか、いつも明るい。

 2年目の職員が突如ひと月の休暇を取った。頑張っていると思ったのに。若い職員。1年目は許されたことも、2年目となるとしっかりしてもらわなければ困る……みたいなことを言ってしまったと、昨日の職員が話してくれた。プレッシャーかな? 続けられるのだろうか?

 新人がたくさん入り、うちのユニットにも次々研修に来ていたが、いつでもいつでも人手不足。だから、こんな年寄りも働かせていただけるのだが。
 もう少し考えてくれませんか? 週一の男性パートは資格があるのに、乱暴だからと入浴介助も任せられず、暇そうに座ってテレビを見ているそうだ。資格があるので私より時給はいいのに。だったら、シーツ交換10床全部やらせろよ。2時間あればできるだろ? 1年もやらせないで今頃リーダーがついて教えてるようだが。
 できない、と言えば、それで済む優しい職場。

 お嫁が来たときに思い切り愚痴りました。
「おかあさん、上に言って時給あげてもらうべきです。自分ならそうします」
 そして愚痴る。私の息子のこと。息子は数年前に釣り船の助手に転向した。なにより好きなヒラマサ船に乗っている。収入は大幅に減った。お嫁は大変だと思う。無線の資格も取り、ひとりで船を任される日もあるらしい……が、給料は上がらない。子供が増えても上がらない。交渉すればなんとかなるかも……しかし、息子は交渉しない。儲かっているのかいないのか? 
 お嫁には苦労かけます。

 
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