第120話 顔合わせ(106話 釣りキチの続き)

文字数 1,183文字

 
 彼女の両親は、父方の祖父母の家を建て替えて住んでいる。
「変な家なんです。父の趣味で」
暖炉のある家? 都会に暖炉?
 その他に亡くなった、母方の祖父母の家がある。そこには彼女のすぐ下の妹が住んでいる。なんと世田谷の✳︎✳︎。それに、白洲次郎の旧邸のそばには、その祖父母の別荘が。それに、自分たちが以前住んでいた家は賃貸にしている。
「家が4軒あるんです」
ラッキー。3人姉妹でひとつずつ貰えば?

 うちは、お金ないわよ。
 ……よく反対されないものだ。息子の学歴、親の学歴、妊娠を告げたら両親は喜んだ、とか。

 顔合わせは店でしようと思っていた。男親が設定するものだろう? しかし皆で家に来て欲しいと。服はネクタイなどなしで、どうか、何も持ってこないで、おかあさんの手作りの料理一品だけで……そういうのは余計に困るんですが。

 私はケーキまで作る料理上手ということになっていた。我が家に息子と彼女が初めて来た時、娘たちとのクリスマス、正月……続いたおもてなしに私は必死で作った。ミートローフやローストビーフ、チーズフォンデュー、鍋その他、シフォンケーキにロールケーキ、チョコを削って、(鰹節削り器はチョコレート削り器になっている)ひたすら削りクリームに混ぜたり上にかけたり。

 奮発した肉でローストビーフを焼き、ホースラディッシュも買い、ケーキは栗原はるみさんのレシピのチョコレートケーキを2種。ホワイトチョコの方はアレンジだ。

 バスに電車にバスに電車に歩き。家族全員で出向いた。家族全員で車以外の外出なんて初めてのことだ。バスの中で、長女は頭痛の気配を感じ、鎮痛剤を飲んだ。よくあることだ。1時間半かけてたどり着いたのは、閑静な住宅街の素敵なお宅。旦那さんが、ある雑誌を見て気に入ってしまったという建築家、その建築家が建てた青森ヒバの家。暖炉のあるお宅だ。

 家族は歓迎してくれた。ご主人は初めて会ったうちの娘の名を読んだ。○○ちゃん、△△ちゃん、と。総勢11人が悠々座れる、これも青森ヒバで作ったという大きなテーブル。
 ハワイに住んでいた、おかあさんのおばさんが、私に言った。
「どうすれば、そんなにスマートでいられるんですか?」
 当時はブティックに勤めていた。服も垢抜けていたはずだ。いい歳をした女がロングブーツ。コートは超よそゆきの白の1番高いやつ。これは長女の旦那の親との顔合わせの時も着て行った。その時も言わせた。
「ママ(のコート)素敵ねえ」

 顔合わせ会は和やかに進んだ。豪華な料理の中に持参したローストビーフが超厚切りで出た。皆酒好きだ。持参したのは新潟の大吟醸『麒麟山』のブルーボトル。飲んだ、飲んだ。私と彼女以外は。長女も飲んだ。頭痛が治った長女は……
 あら、大変。酔っぱらって、ぺらぺら喋り、泣き、トイレに行った。鎮痛剤に酒は危険だ。恥を晒すだけで済んだが。




 






 
 
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