第154話 添い遂げる

文字数 1,217文字

 夫の仕事が週4日に減った。残業もない。趣味はゴルフくらい。面白いテレビもないし、起きるのは早いから時間が有り余っている。
 休みの日は2食だ。遅めの昼酌。そして昼寝。私はようやくほっとして、自分の部屋に引きこもる。iPadで小説読んだりドラマ観たりウトウトしたり……

 夫は昼寝から起き出すと洗い物をしている。そして洗濯物を取りこんでたたみ始める。私は寝たふりをしている。たためば、私より丁寧だ。パジャマのボタンもきちんとはめるから、着るときには面倒だ。

 しかし、なんという変わりよう!  
 なぜ、若い時にやってくれなかったの?

 私も仕事の日、夫は先に帰っている時もあったが、今とは大違い。私はトイレも我慢し夕飯の支度。

「家のことがおろそかになるなら辞めちまえ!」
 そんなことを言う亭主関白の旦那様たち。言われた義妹は辞めました。道楽で働いているとでも思っていたのか? 

「だったらもっと稼いでこい!」
なんて女同士の愚痴。義妹はまたすぐに働いたけど。

 夫は酔うと仕事の愚痴を言った。聞けば大変だとは思うのだ。男は大変だ、と。しかし女の愚痴は聞かない。こちらも言わない。

 娘が愚痴をこぼす。私には愚痴をこぼせる母親はいなかった。
「離婚したいと思わなかった?」
「思ったわよ。でも、帰る実家はないし、生活力はないし、子供3人いたらしょうがない。早く死んでくれって思ったけどね」
「あはは」

 ここまできたら添い遂げるだろう。あと数年はゴルフや旅行を楽しんで。長患いせずに。先に逝って。

 私の父は良き夫だった。よき父親だった。家族思いで働き者だった。夫婦で旅行もしていた。母が50歳で亡くなったあとも、
「ひとりで大丈夫だ。心配するな……」
と言ったが。掃除洗濯料理もしていたが。

 酒好きの父は飲み過ぎた。連れ合いに先に逝かれた寂しさで節制できなかった。朝まで飲んで仕事もなくした。そうなることは自分でも感じていただろうに。

 若い時どんなに苦労しようが……子供の頃は好きだったけど、終わりがひどすぎ……長すぎた。
 子供たちに苦労はさせたくない。夫を看取ってから逝きたいが……

 長寿が怖い。施設の100歳の女性が大腿骨を骨折し手術した。しかし、骨はもろくてつかないらしい。毎日面会に来ていた旦那様はコロナで会えないまま先に逝ってしまった。もはやそれさえわからない。
 自分がそうなるとは思わなかっただろう。私もそうなるとは思ってはいないが……

 娘の旦那の両親は離婚している。父親は子供4人いるのに帰って来なくなったそうだ。
 その父親が心臓手術をする。万が一があるかもしれない。その前に会ったそうだが、おかあさんと妹は来なかった。
 その父親が孫と遊んでいる写真を見せてもらった。嬉しそうだ。孫のために頑張ってほしい。しかしひとり暮らし。術後は大丈夫なのか?

 義妹の亭主関白だった旦那様は脳梗塞を起こしたが、義妹のおかげで大事に至らずすんだ。感謝しているだろう。
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