第63話 ゴルフ 2

文字数 1,562文字

 ゴルフを習って1年4ヶ月、8度目のラウンドは最悪のコンディションだった。10日前に仕事で腰を痛めた。背の低い女性を浴槽から出すときにやってしまった。しかし痛みはこなかったのだ。翌日も平気でゴルフのレッスンに行き、たくさん打っても大丈夫だった。痛みは1日置いてきた。次の週にはコースに出るのに。

 仕事は休まなかった。以前、もっとひどい腰痛のとき、朝起きたら絶対仕事には行けない、と思ったがロキソニンを飲むと動けてしまった。現場では腰痛持ちは当たり前。それで辞めていく者も多い。腰を痛めた、などと言っても、私も痛み止め飲んで来てるんですよ、と言われてしまえば甘えることはできない。

 ラウンドの数日前に夫に、キャンセルしてと言ったら、カートに乗っていればいい、という答え。ずいぶん痛みも引いたので、様子を見ながら、全部できなくても、前半だけでも、休み休みでも、パターだけでも……なんて、まるきり自信がなかった。

 当日、夫は早々と起き出し、前日買ってきてくれていたサンドウィッチとカップのコーンスープを用意して私を起こした。この男、次の日も連日でゴルフなのだ。何年経っても100を切れない。

 初めての河川敷。いつも行くところは高低差のある恐ろしいコースだった。なのに人気がある。初心者の私はほとんどカートに乗れないので息が切れた。そのために毎日ウォーキングをして体力を付けていたのだが、10日ほど歩いていない。腰の痛みよりも体力が落ちたのではないか、と心配した。

 河川敷は平らだった。全面見渡せる。簡単そう……始めると、不思議なことに腰は全然痛くなかった。気が張っているからか? 我ながらすごい精神力。カート乗り入れができる。いつもはドライバーのあとはカートに乗るが、そのあとは小走り。グリーンに行くまでが長いのだ。打数も多い。力が入りすぎるので腕も痛くなる。強く握りすぎるので指も痛くなる……が、腕の振りを小さくした。途中棄権でしかたがないと思っていた。スコアは……言えないが、内容は今までで1番良かった。平らだから楽だった。半分はカート乗り入れできたし、歩けたし小走りも平気だった。平らだとこんなに楽なんだ……いつもより疲れなかった。
 逆に、動いていた方がいいのか? この腰は?

 昼食は私の好物の酢豚があった。酢豚は最後の晩餐に選びたいくらい好き。あとはアップルパイ。それはなかったが。時間があったので温かい紅茶を飲んだ。いつも水分不足なのか、帰りの車の中で足がつる。猛烈に足がつる。

 後半も順調だった。夫は相変わらずボール探し、距離は出るが方向が良くないし、グリーンを越える。ボールをなくす。私は飛距離は出ないが、比較的まっすぐ行く。パー5を4打で乗せた。飛ばないのが悩みだが方向音痴よりは全然いい。パターは、まだまだだけど。

 ひとつ失敗した。紅茶を飲んだのが良くなかった。途中トイレがあり、ハイボールを飲んでいた夫は入った。私は躊躇した。腰ベルトもしているし次のホール、間に合わないかも……なんて考えていたら男性が3人走ってきて飛び込んだので、諦めて我慢。

 男は休憩にビールを飲む。夫もハイボールをお代わりしようとしたが止めた。帰り運転する人はアルコールが残るだろう。プレーして、風呂に入れば基準値以下に下がるのか? 後ろの席のカップルはボトルをキープしていた。
「お酒飲んでトイレが間に合わなかったらどうするの?」
夫は指さした。それは軽犯罪。公衆の場かどうかは微妙だが、罰金を課せられることも。紳士のスポーツだよ。まれに女性もいるらしい。
 イギリスでは女性を排除するために、わざとトイレを設けないところがあるらしい。

 それから、ロストボールは持ち帰っては行けません。ロストボールはゴルフ場のもの。窃盗罪に当たるそうです。

 
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