第116話 依存症

文字数 1,117文字

 近くに、古くからある精神科の病院がある。今は、老人施設の看板を大きく掲げ、デイケア、ショートステイの棟もある。
 精神科に多いのがアルコール依存症だ。かの有名な芸能人もこの施設に入るのでは? とネット上で噂が流れた。(薬物依存症の方の時も)
 若い患者さんが多い。病院の周りには支援するアパートがある。

 息子の友達のおとうさんが、アルコール依存症になった。高校時代、共に停学になった友達の両親とは校長室で会った。嘆く私とは対照的に、楽観的で夫婦仲が良かった。
 病院に連れて行こうとしても、日中は飲んでいないから病気を認めない。学生時代、親に迷惑と心配をかけた息子の友人は、4人兄弟だった。家族会議を開いてなんとかしようとしたが、奥さんに暴力を振るうようになり離婚したという。

 その話を豪快な美容師さんにすると……
 精神科の病院の近くで、古くからやっている美容院には、症状が軽くなった患者が来るそうだ。入院している人は腕にバンドをしている。若い男性や、娘に連れられて50代くらいの母親が来たこともある。酒が抜ければまともだ。もうすぐ退院できるんだ、と喜んでいたという。
 戻ってこなければいいが。断酒できなければ全てを失い死に至る。

 リストカットの患者も多い。美容院に来る30歳くらいの女性は肘から下がケロイド状だという。ある時、上腕を切ったのか、服の袖が赤くなっていた。
「なにやってんのよ。こっち切ればいいじゃん」
 新しい、きれいなところを切りたいのだろうか?

 その女性は家族からも見捨てられ、支援を受けてアパートを借りている。仕事はできない。生活保護を受けているのだろう。病院の鉄格子の窓から手を振られたこともあるそうだ。少し良くなると、普通の窓の部屋に移される。

 病院の患者がうちのマンションの外階段から飛び降りたことがある。病棟の部屋の窓から飛び降りたことも。
 患者は回復すると、数人で病院の周りを歩いている。時々、病院の庭で歌っている人がいる。もう慣れた。ああ、また入ったのだな、と思う。

 リストカット常習者の女性は、派手な格好で歩いているが、最近見かけないという。
 また入院したかな?

 ブティックの開店時間、店の前に若い女の子がしゃがみ込んでいた。酔っ払いか? 朝の10時半。声をかけるとフラフラしていたので支えた。腕にたくさんの傷。初めて見た。リストカット……
 立ち上がるとフラフラして歩いて行った。カメラ屋の店主が言った。さっきからフラフラ歩いてる。警察に連絡しようか?
「Cさん、よく触れるわね。気持ち悪い」
店長は辛辣だ。

 どうしているだろうか? 話の女性と重なってしまった。公園側の病棟はリストカットの患者ばかりだそうだ。
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