第48話 男友達

文字数 1,057文字

 中学2年のときに同じクラスになったS君。背が高かった。私の前の席。彼の隣は背の低いNさん。ふたりはいいコンビだった。1年のとき同じクラスだったのだろう。女のNさんが強く、Sを呼び捨てにしていた。
 Sは毎日遅刻してきた。やはり背の高いI君の仲間だった。I君は不良。見かけはかっこいいくらいの不良。
 S君は後ろを向いて話しかけてきた。私は真面目すぎるくらい真面目で面白くはなかったろうに。反応がないから気になったのかもしれない。授業中も真面目な私にしつこく話しかけて、先生に怒られていた。
 1度だけ素敵だった。文化祭でギターを手に歌った。岡林信康……真面目な私は知らなかった。

 卒業したあと、何度か電話がきた。家の固定電話だ。顔を見ないと私も話せた。同級生の女の子に何人かかけているらしい。出した名前はかわいい子。かわいいけれど性格は我儘で、私は好きではなかったふたり。
 電話は定期的ではない。気まぐれにかかってきた。寂しいときの話し相手の何人かのひとり。私も長電話を楽しんだ。クラシック音楽が好きだというと、電話の向こうで鼻歌が。ツァラトゥストラはかく語りき……

 高校を卒業して就職した。保険会社の本社勤務。その年発売された財形貯蓄のための新しい部署。課長は勝さん。勝海舟の孫だとか。志垣太郎さんのおかあさまがいらした。
 発売されると忙しくなった。真面目な高卒の私は短大出の女性よりも信頼され、帳簿を任された。男性社員は残業続きで心配したほどだ。私も夜の9時まで残ったりした。短大出の子はふたりいたが、ふたりともよく休み、呆れるほど責任感がなかった。大卒の女性は服や化粧は大人の雰囲気、タバコも吸って最初は気おくれしたが、保険会社に入社しながら『保健』と書いた。字も下手で算盤もできなかった。ボールペン字と算盤は入社前の課題に出されていたのに。

 その頃またSから電話がきた。レストランでバイトをしているから食べに来い、と。社交辞令だったのだろう。会社のふたつ手前の駅。
 よくひとりで行ったと思う。ノンノのモデルを真似た格好で。

 社会人になったふたりが久しぶりに会った。Sは仕事中だからたいして話せない。店の名は忘れてしまった。『かわいがってね』という意味だと教えてくれた。
 その夜電話がきた。本当に来るとは思わなかった、と。その後も何度か電話はきたが会うことはなかった。Sは亡くなったのだ。心臓病で突然。中学の同級生の女性から電話がきた。
「親しかったでしょう?」
と。その同級生も真面目すぎるくらい真面目な子だった。
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