第118話 粉と土

文字数 1,054文字

 久しぶりに花を植えた。数年前まで、ベランダは冬が1番花盛りだった。夏は暑すぎ、春と秋には感染症が。ほぼ南向きのベランダだが、去年も今年もちょっと違う。さすがに氷点下になると葉が茶色くなる。元気がない。大きく育ったサボテンは去年までは外に出しっぱなしだったが中に入れた。

 マイブームの時は呆れられるくらい、足の踏み場もないくらい寄せ植えを作った。ハンギングバスケットも壁掛けやら丸いのやら、いくつも吊るした。長い時間、中腰の姿勢で作業をしていると夫が心配したが、好きなことをやっている時は平気なのだ。日に何度もベランダに出て花がらを積んだ。放っておけば見苦しくなる。

 マイブームが投稿に変わり、花はどうでもよくなった。夫に作らせた大きなプランター2個を残し、こまごまとしたものは片付けた。適当に枯れた花と入れ替えるだけでいい。ここにラナンキュラスを3苗入れたら見違えた。久々に土の感触が懐かしい。土には、抗うつ薬と似た効用があるという。土いじりは精神に良い作用を及ぼす。

 ホームベーカリーが壊れた。ずいぶん使っている。2台目だ。発売された時は衝撃だった。全自動でパンをこねて発酵して焼けるなんて! 

 初めてパンを焼いたのは50年くらい前。レシピ本は白黒の薄いものだった。材料は豪快だった。強力粉900グラム……発酵機能のオーブンレンジなどなかったので、苦労した。こたつの中、とか。
 最初は発酵不足でうまくできなかった。ものすごく手間と時間がかかる作業だ。暇さえあれば作っていたので、母にパン娘と呼ばれた。だからホームベーカリーが発売された時にはすぐに購入した。
 朝、焼きたてパンを食べたくてタイマーをセットしたが……音がうるさく夫から苦情が。

 新しいものを買おうと検索した。当時より安い。安くて、餅、そば、うどん、ヨーグルトまで作れるものがある。これに決めよう、と思ったが、なんと値段が3倍以上するものがある。某有名食パンのようなパンが焼ける? 値段は3倍! 
 でも……惹かれる。

 職場の人に話したら……彼女は自分でこねる人だ。この間はシナモンロールを味見させていただいた。常勤で忙しい方なのに、パン作りは趣味、ストレス解消なのだとか。
「自分でこねなさいよ」
と言われてしまった。それは……面倒くさい。

 パンやお菓子作りは、ストレス発散に最適だそうだ。ストレスや不安を抱える人たちが『お菓子作り』に励んでいるとか。形のない粉や砂糖から、形あるものを作り出す喜びがある。
 失敗すれば苛立つし、体重は増えるけど。
 
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