第34話 夫の小遣い

文字数 1,584文字

 40年前、夫の小遣いは月に3万円だった。昼食代は給料から引かれていた。酒類も家計費から出していたが、それでも少ないと不満を言っていた。

 給料から生活費を振り分けると、残りは? 足りなくなる。それをボーナスで補填する。夫は残業が多かった。残業手当が多い月は助かった。しかし、夫はそういう月は小遣いを余分に欲しがった。
「こんなに頑張って働いているのだから」
 そう言われれば、渡さないわけにはいかない。冷えていく。貯金はできない。常にお金のことが頭から離れない。冠婚葬祭は容赦なく……平均より多く包む見栄っ張り。気前がいい。この人の父にも母にも、兄妹にも。友人にも奢りたがる。妻だけは大変だ。金がない、と言って持ち出す。1番大切にしなければならないのは妻だろうに。
 内緒で父に借りたこともある。ボーナスで返すから、と。父は酔うと夫に言った。内緒だって言われてるけどね、○○君……夫は怒った。給料袋を持ってくればいつまでもあると思っている……喧嘩の原因はお金と子供のこと。あと、食事のこと。ワンパターンだとか。ますます冷えていくのがわかった。あと、部屋が汚い、とか。当時視力が2、0あった夫には、私には見えない物が見えたようだ。念入りに掃除をしなければならない。家に来た友人には、掃除が趣味なの? と皮肉を言われた。
 我慢の時代は長かった。お互い様だったのだろうか?

 貯金がないと言うと夫は怒った。1度、家計簿を見せ説明した。無駄遣いしているわけではないのだと。無駄があるとすれば食費しかない。それからあなたの小遣いね。夫は品数が少ないと文句を言う。スーパーに行けば値段を見ないでカゴに入れる。私が高いと感じるものを夫は安い、と言うのだ。
 当時、4人家族の食費は10万近くかかっていた。姉には使い過ぎ、と言われた。夫は家計簿を見て納得したが、食費を減らせ、とは言わなかった。

 もう父からは借りない。孫を連れていくと、父は大盤振る舞い。土曜日の夕方、仕事から帰る父を駅で待ち、スーパーで食料品を買ってもらった。ひとり暮らしの父の部屋を掃除していると、父は飲み始める。酔うと景気よく小遣いをくれた。それを目当てに行った。いやな娘だった。

 今、息子は、金がない、と嘆く。転職し収入はかなり減った。しかし小遣いが少なくてもお嫁さんに文句は言えない。好きなことをやらせてもらっているのだ。お嫁さんはしっかりしている。貯金ゼロの息子と結婚し、家も新車も買い、さっさと繰上げ返済をしている。
 この息子は、独身時代は釣りに給料を全部使い、歳を取ったらホームレスかも、なんて思っていたから、ありがたいお嫁さんである。
 
 職場の施設の男性も子供が3人いる。小遣いは少ない。今は昇給も微々たるものだ。それでも、子供のことを話す時は嬉しそうだ。
 50歳の男性のリーダーは小遣いは特に決まっていない。夜は缶ビール1本。コーヒーも飲まない。水でいい。職場に持ってくるのも水だ。弁当は自分で詰めてくる。不満はないのだろうか? 
『こんなに頑張って働いているのに……』

 40年前は昇給があった。賞与の額が楽しみだった。夫の小遣いの割合も増えたが。
 40年前は出産の時、手伝いに来てくれた義母に交通費を渡した。帰りに小遣いも渡した。貯金などない時代に大盤振る舞い。
 今、息子の1万円と私のそれはずいぶん違う。手伝いに来ている私はスーパーで支払い、息子の財布の中身に驚き補填した……
 
 夫からメールがきた。買い物をしたら金額にびっくりした。千円以上のものはビールだけなのに……節約するということを知らない。
 お金のことと子供のこと、原因がなくなれば喧嘩もしなくなる。去年の喧嘩も小遣いのことだった。給料が大幅にダウンしたのに小遣いは変わらず……
 別居を想像した。この歳でもっと働くか? 安いアパートを借りようか?
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