第30話 ブティック

文字数 1,155文字

 14年勤めていたブティックが倒産した。途中会社名が変わっている。その頃は給料遅配が続いていた。その後、株式会社から有限会社のグループ会社に。当時の部長たちが社長になり、しばらくは予算を達成した。

 私が入った時、ワゴンのセーターは4900円だった。店頭のサービス品のコートが1万円。
 棚には7万円のカシミアのセーターがあった。さすがに定価では売れなかったが、半額になると買う人がいた。半額にしても14000円の利益。
 予算達成していた頃はかなりの利益があったのだろう。ご褒美の旅行が毎年あった。店長とスタッフひとり。北海道、韓国。京都等々。私がお供したのは春の京都だった。一生分の桜を見た。夜桜も。食事は和風の庭のある素晴らしい店だった。
 スタッフ全員ご招待の食事会も。行ったことがない豪華なところだった。鎌倉のローストビーフ。別室を貸切で。給仕がワゴンで運び切り分けてくれる。ケーキも。六本木ヒルズの上階のレストラン……2度と行けまい。

 それが、毎月予算が達成できなくなってきた。客も歳をとる。年齢層が高かった。出かけるところもなくなれば服は必要ない。宝石やバッグのイベントが次から次に。しかし客は皆、ひと通り持っているのだ。

 土佐珊瑚の時は売れた。高価な珊瑚の数珠。置物。メーカーの女性の知識が豊富で○十万の数珠を娘にも、とか、初めての試みだったが売り上げが取れた。
 そのあとはダメだった。景気の良い数人の客頼み。買っていただくために店長は食事に付き合い、カラオケに付き合い、デパートに付き合い、旅行に付き合った。店長はストレスが溜まりスタッフに鬱憤を晴らした。ひとり辞めたが補充されなかった。終日スタッフがひとりで、という日も多くなった。レジが動かなければ自分で何か買う。しかし辞めるに辞められない状態。
 そんな時にまた宝石のイベント。メーカーの人が来てセッティング……もういやだ。売れなければスタッフの誰かが買わなければならない。もうスタッフは客だ。10万円以下なら買っても仕方ない……何のために働いているのか?
 翌日、黒のスーツを着ていった。宝石が映えるように黒を着るのだ。ところがメーカーの人が慌てて商品を片付け始めた。他のグループ会社の支払いが滞ったまま倒産。
 驚いた。店長は聞いた。うちの社長はちゃんと払っているよね?

 しかし、時間の問題だった。倒産のファックスが流れてきた時には喜んでしまった。皆同じだったのではないか? 
 翌日は商品の返品作業をした。合間に雇用保険のことを調べる。皆で貰える額を計算した。会社都合だからすぐ貰えるわ……10年以上働いたから9か月分。歳だから延長も……
 近くの写真屋に順番で証明写真を撮りに行った。片付いた店、空っぽになった写真を撮り社長に送信した。お疲れ様。
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