第45話 我が家

文字数 863文字

 久しぶりに戻った我が家は天国だ。狭いマンションだが。孫は、どうして家を買わないの? と無邪気に聞いた。私の眼鏡をいじっていたので、20万円したのよ、と言ったら、どうしてお金あるのに家買わないの? と。
 あなたのおうちは借家の一軒家だけど無駄に広い。掃除するのは大変なの。ママの実家も立派だものね。青森ヒバで建てた家。おばあちゃんは青森ヒバのまな板さえ、買うのを躊躇している。眼鏡の値段は本当だけどね。おじいちゃんには言えないけどね。ブティックで働いていた時に、売上のために仕方なく買ったのよ。

 3週間ぶりの我が家はきれいになっていた。私がいない方がきれいなのでは? これなら先に逝っても大丈夫か。
 キッチン、冷蔵庫の中はスッキリ。まあ、料理してないからね。ベランダのバラは1輪咲き、諦めていたカトレア3本に蕾がついて膨らんでいた。部屋の観葉植物は窓辺に集められ、成長していた。曲がっているのが嫌なのだろう。支柱に白い、目立つ結束バンドで真っ直ぐに止めてあった。
 私は毎日、葉水もやって世話してあげたのに元気なかった……

 洗面所の汚いタオルはなくなり、新品が補充されていた。引き出しを開ければ一目瞭然。でも捨てたのは、染めた髪を拭くためのタオルなのよ。今度は目立たない色にするわね。
 洗面所の下はスッキリ。何を捨てた? それさえ思い出せない。

 掃除、洗濯はひとり暮らしの時にやっていたものね。料理は上手くなっているのでは? と期待したのだけれど。
 あなたの息子はすごかった。魚づくしだけど、刺身にマリネ、焼き物、煮物、汁物、毎日包丁を研いでいた。おかげで母は太って戻った。
 洗濯は、風呂の水ですすぎ1回まで。湿度の高い日はすすぎを3回。細かく指示された。
 ママが赤ちゃんを連れて戻ると、風呂に入れた。慣れたものだ。翌朝、起きると赤ちゃんを抱いていた。小さな爪を器用に切っていた。寝不足のママを眠らせてあげていた。
 私は確か、産後戻ると、朝、味噌汁作れ、と言われたわね。思い出した。いろいろと。年月が忘れさせてくれた恨みつらみ。
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