第135話 向き不向き

文字数 1,239文字

 先日仕事の職員証の写真を撮った。全員ではない。そういえば去年撮ったのに写真が出来上がってきていない。忘れていたが。
 事務所で聞くと、若い女の事務員が言った。データを消してしまったそうだ。そのため、撮り直しだ。
「詳しいことは○○さんに聞いてください」

 はい、○○さんね、わかりました。
 ○○さんなら納得。40代の男性。6年前に私が入ったときから事務所にいる。仕事はできないようにはみえないが……できない。事務的なことを頼んでも、1度で済んだことがない。退職した者は、健康保険の手続きをしてくれないので困っていた。2度頼んでもやってくれない。新しい職場から催促された……忘れてしまうのだろうか? この男はたぶんコネで入ったのだろう……などと思っていた。
 大体、写真を撮ってから何か月? 大半の者の写真はすでに職員証の中に貼ってあった。私も忘れていたのだが。

 去年、スタッフルームに掲示がしてあった。うちの施設が……なんとか処分? よくわからないし忘れてしまったが、事務的なことを督促されてもやらずに処分を受けた。百万くらいの罰金だかを取られ、施設長も給料を減らされたくらいの処分。それも、この男の怠慢のせいだったという。催促されても催促されてもできない。撮った写真のデータを消してしまうのも納得。
 一緒に働いている者は迷惑だろう。態度に出ていた。職員証の写真のために、二度手間だ。女は小さな写真のために髪を染め化粧をして撮るのに。事務員もいくらかでもマシに写るように照明を考えて、何枚も撮ってくれたのに……また消してしまわなければいいが。ありえるかも。
 ○○さんは、どこかの施設長の息子だという。事務は向いていないのだろう。

 以前、入居者のベッドが壊れて取り替えることになったことがある。ベッドを押してきたのは◯○さんだった。手伝ったのは私だ。大丈夫なのか? この男で? と思ってしまった。入居者の部屋は狭い。取り替えるのは大変だろうと、女の私は思った。
 しかし、○○さんは実に手際がよかった。マットをどける。ベッドを外に出す。新しいベッドを中に入れる。マットを戻す。テキパキと指図してあっという間に終わらせて、エレベーターで古いベッドと共に去っていった。無駄がなく実に手際がよかった。見直した。感心した。

 それから以前、薬をしまう扉の鍵穴の中で鍵が折れた。鍵の開け閉めは日に何度もするので金属の鍵も劣化した? 男性スタッフがいくら頑張っても中に残った鍵を出すことはできなかった。これは、業者に来てもらって、鍵穴の交換……女の私は思った。しかし、次に行ったときには直っていた。○○さんが簡単に直したらしい。

 ○○さんはパソコンの不具合も、ある程度は直せる。業者に連絡しなければならないことはなかなか直らない。風呂場の水道の蛇口もテープを巻いたままひと月以上そのままだった。私は催促するのも嫌になるくらい……まさか、部品がなかったとか? 

 事務仕事は向いてないと思う。思うだけだが。
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