第111話 逆縁の不幸

文字数 946文字

 従兄妹の三兄妹は夫と違い出来が良かったそうだ。市内に大きな家があった。結婚前に紹介された叔母は口うるさい方で怖いくらいだった。結婚式に招待したときに用意した、ホテルの朝食がパンだったので文句を言い、義妹がおにぎりを買いに行ったとか……

 義母が病気で亡くなったのは結婚した翌々年だった。私たちはまだ20代後半だった。田舎の実家に親戚が集まっていたら連絡が。
 叔母の長男が自殺した。
 義母の死を知っての行動か? 大勢の親戚はふたつの葬式に分かれた。

 叔母の次男に会ったのは義父の葬式の時だった。まだ30代前半だった。
 次男は東京で働いていた。夫とは歳が近いので子供の頃はよく遊んだらしい。年賀状のやりとりだけはずっとしていた。
 下の妹(従妹)はその後、若くして癌で亡くなった。かわいそうな叔母さん。それでも次男は田舎に戻らず結婚もせず働いていた。やがて叔父は認知症になり施設へ。叔母も弱ったがひとり暮らしを続けていた。

 夫も従兄も、もう50代だった。夫の携帯に病院から電話が来た。従兄が横浜の病院に入院して危篤状態。
「延命治療どうしますか?」
 なんの冗談?
 20年も会っていない従兄? 田舎の叔母ではもう、埒が明かなかったのだろう。

 夫は会社を早退してきた。ふたりでわけもわからず病院へ行った。辿り着いた病院の先生と夫は話した。従兄は白血病だった。
 このまま亡くなられたらどうなるの? 
 私たちがどうにかしなけりゃならないの? 

 夫はその頃仕事が忙しかった。しかし、できるだけのことをした。娘が心臓手術の時でさえ、最低限しか休まなかった。カテーテル検査にも、来なけりゃダメですか? と先生に聞いていた。それが、20年ぶりに会った従兄の窮地のために仕事を休み何度も見舞った。従兄は幸いにも意識を取り戻し退院した。
 住まいを引き払い田舎に戻る。

 どうか、生きて戻れますように。どうぞ、こっちで亡くならないでください……
 本気で思った。最悪を想像した。ご遺体を運ぶのか、こちらで焼くのか? もう、頼れる身内はいなかった。
 幸いにも従兄はひとりで帰郷した。お礼に稲庭うどんと菓子が送られてきた。安堵した。

 しかし数ヶ月後に亡くなった。夫は葬儀に出た。叔母は弱り、その後の後始末は遠い親戚がしたらしい。




 
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