第62話 連れ合い 2

文字数 1,334文字

 若い頃、保険会社で事務をしていた。最初の2年は本社勤務。母が亡くなり、家事をしなければならなくなったので、近くの営業所に移動させてもらった。歩いて通える距離。
 
 クリスマスに営業所の外交員さんに、喫茶店で行われるパーティーに参加してくれ、と頼まれた。お得意さんの店なのだろう。最初は断った。前日も飲んで二日酔い……髪も洗わないで出勤したのだ。しかし、しつこく誘われて断れず……
 髪も服も気に入らない。紹介された男は無口。当たり障りのない会話。声だけは低音で素敵だった。出身は、秋田……そこから話が弾んでしまった。秋田は父の故郷。おまけに私は行ってきたばかり。女友達と恐山から十和田湖、奥入瀬、父の実家に泊めてもらい、田沢湖……
 酒が入れば話が弾む。結局、続けて二日酔い。電話番号を教えた。

 父は同郷の娘の彼氏を紹介され喜んだ。家に連れてくると故郷の話をする。酔って同じ話を何度も。そして、同郷の娘の彼氏の実家に付いてきた。そこで、彼の叔母が父の従兄弟と一緒になっていることがわかった。

 縁があった。結婚した。いろいろあった。イヤなことは思い出さないほうがいい。穏やかに暮らしたいから。

 夫とは趣味がことごとく違う。夫は本を読めば眠くなる。クラシックは雑音だし。映画は最後まで観る前にほとんど寝ている。テレビは大好き。いつも点けている。見ているわけではない。独り暮らしをしていたから、点いていないと寂しいのだとか。
 私は観るときは真剣に観る。ほとんどiPadで観る。

 適温が違う。夫は寒がりだ。温度を上げられると私は半袖になる。夏は冷やしすぎる。姉夫婦もそうだ。温度が違うから食事の時間をずらす。姉は寒いのに窓を開けられる。義兄は靴下も履かない。姉は指先が紫色になるほど冷え性だ。

 最近では寄り添ってくる。私のためにビデオを撮っておいてくれる。好きそうな映画、クラシック、園芸、紅茶の淹れ方、アップルパイの作り方……
 ありがたいけどね。映画はすでに観ています。でも悪いから一緒に見る。吹き替えのカットだらけの……夫は眠る。クラシックも一緒に聴く。ありがたい。聴きたいわ。でも、あとでゆっくり見るから、と言うと夫はほっとする。アランフェス以外は雑音。

 夫は記念日には花を買ってきてくれる。結婚当初は生活が大変だったのだ。暖かいマンションで生花は日持ちしない。切り詰めているのに、いくらしたの? それを顔に出さないにようにした。
 私がランに興味を持つと、誕生日に花屋から大きな胡蝶蘭が届いた。大きすぎるでしょう? 狭い部屋なのに。今のように手頃な値段では買えなかった。夫のひと月分の小遣いくらい。40周年の今年は、私の好きな小ぶりのランにアンスリウム、アイビーの寄せ鉢。ありがとう。長持ちさせます。また咲かせます。
 でもね、わかっています。給料日間近になると、金がない、と言うでしょ。金がない。家庭に還元してるから……
 コンビニに寄れば私の好きなフルーツサンドを買ってきてくれる。小遣いの範囲で間に合わせてくれるのなら感謝しますが……もうすぐ仕事を辞めるのだから、少しは貯金すればいいのに。
 お金のことは1番の喧嘩の原因だから、言わないけどね。私が働いている間は。

 

  

 
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