第65話 父と娘 2

文字数 1,050文字

 61話の『父と娘』に進展があった。
 水曜日、ゴミを捨てに玄関を開けたら、隣のご主人にぶつけてしまった。女性ふたりと出かけるところだった。ピンときた。介護に携わっている方。デイケアか、施設入所か? 娘さんは、ひとりでかかえていないで相談をしたのだろう。
 旦那さんは、わけわからず連れて行かれ戸惑っていた。
「行ってらっしゃい。〇〇さん」
声をかけて車に乗るのを見届けた。ひとりの女性は残ったので話をした。ケアマネージャーさんだった。
 デイケアは4度目。拒否されるのでふたりで迎えに来た。娘さんは平日は仕事でいない。ドアの鍵は開けてある。とりあえず週に2度。土曜日は娘さんが送り出す……

 自分の父を思い出す。母に死なれ、私が結婚して家を出ると、酒浸りになり仕事もなくした。ある日、幼い子をふたり連れて様子を見に行くと、呼吸がおかしかった。酒だけ飲んでいて栄養失調。姉はフルタイムで働いていた。その後の入院。手続き、面倒は私に……

 隣の娘もそうなのだろうか? 兄か弟がいるはずだ。とうに家を出た男は力になっているのだろうか? 
 週に2度でもデイケアは助かる。入浴させてくれるから。父は風呂に入るのを嫌がった。男やもめにうじがわく。当時の私の悩みといえば90パーセントは父のことだった。姉妹の負担は平等ではない。隣の娘もフルタイムで働いているようだ。日中、父親はひとりで過ごす。このあいだも自転車に乗っていた。止まってはゴミを拾う。街をきれいにしている意識があるのだそうだ。空き缶集めもそれがきっかけだったのだろうか? デイケアが日課になってくれるといいが。

 私の父は姉が引き取った。夫婦ふたりの小さな家だ。階下の部屋をフローリングにし、押入れを改造しポータブルトイレを置いた。子供のいない夫婦は日中は働いていている。私もパートをしていたが、週2日のデイケアの日は支度をしに行き、帰りは出迎えた。他の日には土日以外は午前と午後、ヘルパーさんに来てもらった。
 それでも姉夫婦の間は険悪になっていくのがわかった。義兄が早期退職し、姉は出勤。広くはない家での同居、そこに他人が入る。義兄には耐えられなくなった。

 やがて施設に入れた。父の年金だけでは足りない。足りない分は姉と折半。それがいつまで続くのか? 我が家に余裕はないのに。
 しかし、施設は楽だった。洗濯もしてくれる。何もしなくていいのだ。金さえ払っていれば。面会はしばらく行かなくても、父にはもう時間の概念はない。戦争が終わって帰ってきたばかりなのだ。
 
 
 
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