第33話 出産は命懸け

文字数 722文字

 友人の話だ。ふたつ下の妹を出産した時におかあさんが亡くなった。おとうさんは再婚し、生みの母親の記憶はない。

 お嫁さんの友人も数年前、出産のときに亡くなった。子供は無事だった。出産は今でも命懸けなのだ。私は3人とも安産だった。甘える母親はすでにいなかったから、産後も動いた。

 今、海辺の町に来ている。息子の家だ。お嫁さんは2人目を出産するので東京の実家に帰っている。上の子が小学校が始まるので世話と留守番を頼まれた。道路を渡り少し歩くともう海岸だ。8月も終わりだが、まだ海水浴客は大勢いた。

 出産予定日を4日過ぎた。お嫁さんの希望では予定日より早く産まれて、新学期には赤ちゃんを連れて帰れたら……私の思惑では、コロナのために新学期は遅れるかも……
 希望通りにも思惑通りにもいかない。8月の終わりにようやく産まれた。産まれたての赤ちゃんの写真が送られてきて安心していた。胎盤が出ずに全身麻酔が痛かったと。そのあと息子からのラインに既読がつかなかった。

 息子は連日、釣った魚をご馳走してくれた。キハダマグロはおろして刺身と、炙ってたたきに。アカハタの煮付け。ひとり暮らしでも食事の不自由はない。たたきは、からしと酢で食べるのだそうな。煮付けは私より上手だ。

 その時にお嫁さんから電話がきた。息子と話したあと孫に変わった。孫は、赤ちゃん赤い? とか聞いていた。

 お嫁さんは胎盤が剥がれず大量出血した。連絡のなかった5時間は大変だったのだろう。出産は今でも命懸けなのだ。

 上の子のことが気がかりだろう。孫もふざけているが不安で寂しいと思う。お嫁さんにはゆっくり休んでほしい。こちらのことは心配しないで。体力だけはあるからね。早く快復して会えますように。
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