第370話 ある日の喫茶店で

文字数 1,462文字

 今日、午前中に2人の友人から呼び出しがかかった。ヒマを持て余していた私は喜んで出かけた。1人は同い年で10年来の付き合い。もう1人は10歳年下の、こちらは今流行りのマッチングアプリで目下恋人募集中の友人だ。ラーメン屋で昼食をとった後、近くのGUとユニクロで買い物をし、その後、喫茶店に立ち寄った。

 10歳下の友人は近々マッチングアプリで知り合った女性と会う予定だという。その女性とどんな話をしたらいいか?何か面白い話はないかと、我々2人の冴えない中年に尋ねた。友人は
「まあ、時事ネタでいいんじゃないの?この人みたいに海戦ネタは駄目だよ。サラミスの海戦とかアルマダの海戦とか。絶対次はないから(笑)。」
と世界史を専門とする私をおちょくる。私は私で、先日TSUTAYAから借りて来た『弘兼憲史 ヒューマニズム短編集①』をバックから取り出し、
「これ読んどけばばっちりだよ!」
と笑顔で差し出した。恋人募集中の友人は
「ほんとに使えないオッサン2人ですね。」
と苦笑いする。我々2人は
「まあでも、自然体でいいんじゃないの?そうそう大谷翔平の話でもしとけばいいんだよ。大谷翔平カッコイイよねとか、大谷翔平凄いよねとか。」
「そうそう、で最後は大谷翔平と俺とどっちがいいって聞いてみ?絶対、大谷翔平って答えるから(笑)(笑)(笑)。」
と畳みかける。さすがに10歳下の友人が哀れになった私は
「でも、まじめな話、何か気の利いた話なんて背伸びすることはないと思う。それより相手の話を聞いてやればいいんだよ。あなたに興味がありますって事が伝わればそれでいいんだよ。」
と常識的なことを述べた。10歳下の友人は
「でも、それじゃ間が持たないというか・・・。お互いに相手に質問してそれで答えてすぐ終わってしまうというか・・・。なんか盛り上がりに欠けるんですよ。」
と言う。そこで私は
「盛り上がりか・・・。軽い笑いがあればね。だとしたらものボケなんかいいかもな。」とアイスコーヒーのグラスに入っていたストローを取り出して首元に持っていき
「ねえねえ、今日のどうかな?」
と、ネクタイを締める真似をしてみた。10歳下の友人はクスリと笑って言った。
「ああ、まあそれなら。」
すると、同じ年の友人がテーブルの上の透明グラスに入ったミルクと黒いシロップを見比べて
「赤と白。君ならどっち?」
と、聞いてきた。10歳下の友人は一瞬あっけにとられたが、私が
「やっぱ肉料理には、赤だろ!赤」
と黒いシロップを手に取って助太刀すると
「あ~なるほど!ワインですね。」
と合点がいったようだ。

 と、まあこんな風に我々3人はとても有意義な?時間を過ごした。10歳下の友人を弁護?するわけでも、ヨイショ?するわけでもないが、いわゆるルックス的にも、ちょっといやらしい話だが年収的にも、これまた品のない言い方だが、女性から見たら【いい買い物】だと思うのだけどなぁ。まあ、若干あか抜けないところが無きにしもあらずではあるが・・・。
 でも、彼の真価はルックスとか年収とかそんなところにあるのではない。彼自身は決して自分から口にはしない事だが、前の会社の食堂で私が独りポツンと食べていたところ周りの目なんかこれっぽっちもお構いなしで
「長谷川さん、どうですか?」
と向かいに座ってくれたのだ。その事を私は決して忘れないし、我々の友人付き合いが始まったのもそれからなのだ。
「だから何?」
などと聞いてくる女性などこちらから願い下げだ。
 そんなわけで、Kくん、マッチングアプリ頑張れよ!骨はいつでも拾ってやるぞ(笑)!

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