第10話 yes

文字数 798文字

 以前に比べてよく本を読むようになった。いくらか(といってもわずかなものだが)読んでみてわかったのだが、私が面白いと思う本には共通点がある。みな文体がシンプルでリズミカルだ。一文に形容詞が二つも三つもあったり、不必要に難しい言い回しがされていたりすると嫌になってしまう。主語と述語がはっきりしないのも問題だ。「良い小説とは、普通の教育を受けた者であれば誰にでも読めるものだ。」とサマセット・モームという小説家が述べている。私も賛成だ。文章であれ、家電であれ、良いものは常にシンプルだ。単純にそのほうがわかりやすい。 
 さてここからが本題だが、ここまで述べてきた通り、文章は簡潔なほうが良いと仮定し、小説の無駄な飾りをそぎ落としてシンプルを極めた結果残るのは何か?
 題名を見て、勘のいい人はすでにお気づきと思われる。そう、オノ・ヨーコさんだ。ご存知の方も多いと思われるが、オノ・ヨーコとジョン・レノンのなれそめが以下だ。
 彼女の個展を訪れたジョンが、部屋の中に脚立が置いてあるのを見つけ、それに登ってみると、上から虫眼鏡がつり下げられている。天井を見ると小さく「yes」とあったそうだ。〇と書くか×と書くか、HelloにするかGoodbyeにするか、あるいはもっと突拍子もないものにするかは人それぞれでヨーコさんにとってはそれが「yes」だったわけだ。相手が誰であれ、何であれ、まずはその存在を肯定する。しかも虫眼鏡でわかるくらいにそっと優しく。そこからすべてが始まるんだというヨーコさんにジョンはハートをキャッチされたのだろう。素敵な話だ。
オノ・ヨーコさんがそうだったように、小説も一つのメッセージなのだと思う。無駄をそぎ落とした結果残るものが誰かにとって優しいメッセージだと良い。そして私のこの文章もまた一つのメッセージだ。オノ・ヨーコさんに敬意を払って最後に「yes」と述べて締めくくりたい。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み