第338話 良き書

文字数 1,150文字

 夏休みに職場の学童で5種類のマンガを設置した。『鋼の錬金術師』・『ちはやふる』・『ヒカルの碁』・『彼氏彼女の事情』・『町田君の世界』の5種だ。このうち最も読まれたのが『鋼の錬金術師』。もっとも児童の手に取られなかったのが『町田君の世界』だ。

 違いは何かな?と考えてみたところ、おそらくは、内容が具体的か抽象的かという点だと思われる。『鋼の錬金術師』ではエルリック兄弟が自分たちの母親を生き返らそうと、禁忌とされる人体錬成を行うもそれに失敗。兄の片腕、片足と、弟の体そのものを“もっていかれる”ところから話が始まる。手にしろ、足にしろ目で見て手で触れる。具体的だ。
これに対して『町田君の世界』では、決して頭の切れるほうではない町田君が、友情とか勇気とか愛とか恋といった、目に見えない、手で触れられない抽象的な概念について体当たりで?ぶつかってゆく。

 具体的か抽象的かという点がこの二つの作品の一番の違いなのではないか?そして、子供たちの発達段階において“抽象的思考”が可能になるのは、小学生も終わりになるころなのではないか?そこには無論個人差もあるだろうが・・・。

 そんなわけで、一言で言うと『町田君の世界』は小学生にはちょっと難しかったのではないか?という結論に落ち着いた。もちろん中には読める子もいるだろうが・・・。

 ただ私としては個人的に『町田君の世界』という漫画を凄く気に入っていたので、もう少し手に取ってもらえると嬉しかった。とはいってもやはり発達段階にあったコンテンツを提供するのが心の内面を耕すのには一番の近道だ。背伸びは良くない。

 そんな話を友人にしてみた。友人も
「『町田君の世界』確かに良いマンガなんですけどね。ちょっと難しかったか・・・。」
と賛同してくれた。そのうえで
「だったら、スラムダンクなんかどうですか?私も小学生の時読んでいましたし。」
と、井上雄彦先生のスラムダンクを勧めてくれた。私としてはまさに青天の霹靂で
「そうだ!なぜ、スラムダンクに気づかなかったのだろう!」
ともろ手を挙げて賛成した。“完結していて、一定の評価を得ていて、教育的にも好ましい”という条件にも十二分にマッチしている。すぐにブックオフオンラインで検索してみたところ1万数千円はするらしい。ちょっと高い。まあ良い。安くなっている時を選んで購入できたら良いなあと思う。

 その昔、私の両親は世界の名作と言われる物語を子供向けに書かれた全集を古本屋で見つけてきてくれた。引っ越して祖父母と同居する際に、結局、置く場所がなくて納戸にしまい込んだままカビが生えてしまった。両親はとても嘆いていた。

 良き師、良き友、良き書
というが、書物から得られるものは計り知れない。ぜひ、良き書を子供たちに読ませてやりたいものだ。
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