第54話 優しい文化

文字数 1,209文字

 学童の子供たち、特に男の子に人気のある遊びは「紙飛行機」だ。
紙飛行機に特化した折り紙の本もあり、いつも誰かが作っては飛ばして遊んでいる。風に乗って空を飛ぶことへのあこがれは男の子たちの心をギュッとつかんで離さない。思えば私自身もそうだった。

 18で大学のある仙台に移り住んで、真っ先に入ったのが学友会航空部だった。とにかくグライダーで空を飛んでみたかったのだ。
入ってみてわかったのだが、グライダーを1回飛ばすだけでも、物凄いお金と労力が必要になる。とてもきつい部活動だった。

 その航空部の初フライトであろうことか私は吐いてしまった。
前席に教官、後部座席に私が乗りウインチに魅かれて大空へと飛び上がった。そこまでは良かった。上空1400メートルくらいのところだったと思う。上昇気流に乗り旋回しながら景色が地図のように見える段階までくると、もともと乗り物に弱かった私の胃は中の物を逆流させてしまった。教官に「気持ち悪いです。」と告げる暇は無かった。ただ、とっさに「ここで吐いたらやばいな。」と思い、その時着ていたヘインズの白いTシャツの中に吐いた。

 部員全員の共有物であるグライダーのコックピットで吐いてしまい、怒られるか、白い目で見られるか。どちらかだと思っていた私。だが周囲は優しかった。「Tシャツの中に吐いたんだ。えれーよ!」そう、3年生の先輩は言ってくれた。思わず泣きそうになった。

 お金の問題もあり程なく退部したのだが、その時のことは今でも忘れない。優しい組織文化だった。

 あれから20数年。いろいろな組織に入ったり出たりしてきた。サークルだったり、研究室だったり、学校だったり、療養施設だったり、お店だったり、会社だったり、いろいろだ。良い組織もあれば、そうでない組織もあった。今になって思うのは、その組織の文化をつくるのはやっぱり「人」だということ。「企業は人なり」とあるマンガで読んだ事があるが、その通りだ。

 誰かに優しくされたら、今度は自分が誰かに優しくしてやりたい。優しさも広がっていく。だが、その逆もまた然り。それが人と言うモノかもしれない。何にしろ、そうやって「習慣」が「文化」に変わっていく。冷たい文化よりは、優しい文化が醸し出される方がいい。無論、金銭的に潤っているかどうかで、その組織文化が優しいかどうかもある程度は決まってくるが・・・。それでも最終的にはやっぱり「人」だと思いたい。

 さて、皆さんの属する組織は優しい文化ですか?もしくは優しくなれるよう努めていますか?また、潤っているから優しくなれるのか?優しいから潤ってくるのか?どちらが先なのでしょう?「政(まつりごと)の基本は民を食わせることにある」とも言います。にわかには答えの出ない問題です。皆さんはどうお考えになりますか?
私?私にも解りかねますが・・・、でも優しさと贅沢とは別のものだという事はなんとなく解ります。では、また!
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