第95話 リスク

文字数 1,035文字

 ある日、仕事から帰ると食卓にはうどんとピザが並べられていた。
「お帰り、今日忙しかったからスーパーでお惣菜買ってきたよ。食べな。」
と母が言う。それを聞いて、その光景を見て、久しぶりに腹が立った。と言うかキレそうになった。それをぐっとこらえて、麦茶のグラスを一気に飲み干した。グラスに入っていた氷を思い切りかみ砕いた。「バリリ!ボリ、ゴリ!」それで一息ついた。私が怒ったのは「うどんにピザ」という組み合わせに対してではない。数あるスーパーのお総菜コーナーからいっつも同じものしか買ってこない事に対してだ。北関東の平野で生まれ育ったうちの母は冒険とか挑戦とかを極端に避ける。いわば保守の塊だ。それはスーパーのお惣菜についても同じだ。大きなスーパーのお総菜コーナーには和食もあれば、パン類もあるし、中華だって、揚げ物だってある。本当に様々なお惣菜があって目移りする。たまにスーパーに行って「あれ食べてみたい」と私が言うと母は何かと理由をつけて却下する。そしていつも決まったものを買う。何か新しいものを食べてみようとか、珍しいものに挑戦してみようとか、そういうのが全くない。リスクをとるという事をしないのだ。したがってうちの食卓はいっつも同じようなものが並ぶ。それが私には腹立たしい。そしてついにはうどんにピザだ。さすがの私もキレた。ピザにしたって、はるか昔、兄がどうしても食べたいというのでしぶしぶ買ってみたら美味しかったというのがその理由だ。自分で開拓したものではない。何故この人こうもリスクをとらないのか?父には悪いが、自分の結婚相手には公務員を選んだし、私には教師になるよう、それこそ幼少期から口酸っぱく言ってきた。今ある状態を保ち守る事、そういう方向にしかベクトルが向いていないのだ。いや、それはいい。それは母の人生だ。私がとやかく言う事ではない。ただ、人の親である以上、有形無形に他に影響を及ぼすという事実にこの人は気づいていない。うどんにピザもその一例だ。それが私には腹立たしい。この母を反面教師としてか、私はリスクをとる人が好きだし、敬意を払う。自分自身もそうありたいと思う。
 誰が言ったか忘れたが、人類で初めてカニを食った人って凄い。あんな外見の物を初めて食べた人って、リスクを恐れない人だったのだろう。その人のおかげで我々はカニを食えるようになったのだからその功績は大だ。あ~うちの食卓にも本物のカニが登らないかな~。そのくらいのリスク母にとって欲しい(笑)
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