第114話 くさす

文字数 712文字

 その昔、私がまだ中学生の頃、あるクラスメイトが当時売り出し中のXジャパンを紹介してくれた。彼はある音楽雑誌の切り抜きを見せ、「カッコいいよね!」と言った。そこにはXジャパンのメンバーそれぞれの理想とする死に方が彼らの強烈なビジュアルと共に写されていた。その中にはまだ存命中のHideさんもいた。当時の私はそれを「くっだらねー。」と一蹴した。その頃の私と言えば解りもしないのに夏目漱石の「三四郎」「それから」「門」などを字面だけ追って満足しているような中学生だった。結婚どころか恋愛もしたことのない中学生が「それから」など読んで解ろうはずもない。いわゆる権威主義以外の何物でもなかった。教科書や偉い人が「いい」と言うものを解りもしないのに有難がる。また、難しいものほど有難がる。そんな傾向があった。それでいて、友人の紹介してくれたXジャパンをまともに聴いたこともないのに全否定してしまう。そんな人間だった。今から思うとなんと情けない事か。おそらくその頃の私は自分に自信がなかったのだと思う。自分に自信があれば、誰が何といおうと自分にとって良いものは良いと自信を持って言えるし、どんなに偉い人や、いわゆる権威がある人が良いと言っても、つまらないものはつまらないと言えるはずだ。自分に自信の無かった当時の私は友人が紹介してくれたXジャパンを解りもしないのに「くさす」ことで「自分」を保っているような面が確かにあった。情けないガキであった。その友人は自分の良いと思うものを共有しようと思ってXジャパンを紹介してくれたのに。なんてひどい事をしたのだろう。むごいことをしたのだろう。今考えると本当に悔やまれる。M君、悪かった。ごめん。
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