第53話 自分自身との戦い

文字数 1,893文字

 オリンピックが始まった。
もっとも私は男子サッカー以外興味がない。よって男子サッカー以外は基本テレビ中継も見ない。うちの両親などはここぞとばかりに、普段、見向きもしない水泳や、バレーボールの中継を熱心に応援している。ミーハーなのだ。とは言えない。そもそもオリンピックとはスポーツの祭典、つまりお祭りなのだからミーハーで全然問題ないのだ。ミーハーになれない私の方こそノリが悪いというべきか?

 まあそれは良いとして、今回のオリンピック。コロナの問題は別として、いろいろケチがついた。クリエイティブディレクターの佐々木氏をはじめ音楽担当のコーネリアス・小山田氏や最後にショーディレクターの小林氏と辞任・解任が相次いだ。

 私は詳しい事は解らないので、ここで偉そうにコメントできる立場にはない。ただ小山田氏の件については思うところがある。

 結論から言うと雑誌のインタヴューで自分の過去のいじめを武勇伝の如く語った小山田氏は確かに悪い。でもそれを声高に非難できる人間がどれほどいるのか?と私などは思う。

 私自身についていえば、いじめをしたこともあるし、逆にいじめられたこともある。見て見ぬふりをした傍観者もいじめた側にカウントするなら、この国のほとんどの人は私と同じではないだろうか?

 小学生の頃の私は心無い陰口やからかい半分で同級生を無視したりもした。十分にいじめと言える行為だったと思う。その私がいじめられたのは中学に入ってからだ。中学1年の時同じクラスのTと言う体のでかい男子に私は執拗に狙われた。その頃の私はそれなりに勉強も運動もでき女子生徒からの人気もそれなりにあり、Tからすれば面白くない存在だったのだろう。Tが私を狙い始めるとクラスの他の男子は一斉にTになびいた。クラス中の少なくとも男子から、からかい半分のいじめを受けるようになってしまった。

 Tは自分より弱い相手を見つけては、その相手を辱める事で自分の精神を保っているようなところがあった。今までの人生で関わった人間の中でも1番たちの悪いやつだった。私はクラスが変わるのを機に別の友達をつくり、出来るだけTとは関わらないようにした。その後Tとは同じ高校に進学したのだが、高校でもTは自分より立場の弱い人間を見つけては同じような辱めを繰り返していたらしい。一度そうしたいじめが発覚して無期停学をくらっていた。今でも同じような辱めを繰り返して自分を保っているのか?それとも深い内省をしたのか?私には解らない。もう関係のない事だ。

 後に聞いた話によれば、Tの家には複雑な事情があったようだ。今ここでそれを明らかにするのはさすがに憚られる。だが、そうした事情がTに鬱屈としたストレスとしてのしかかっていたのは事実だろう。ただ問題はここだ。Tは自分が受けたストレスを自分より弱い相手に対して発散する事で自己を保っていた。要はいじめられた人間が自分より弱い人間をいじめるのと同じ構造だ。
それではいけない。
 私事で恐縮だが、私に人に誇れることがあるとすれば、自分がいじめられてからは決して他人をいじめなかった事だ。実にちっぽけな、でもこれが私の人格・アイデンティティーを形作る重要な要素だ。

 いじめたり、いじめられたり、それが人間を含め生き物の自然な在り様かもしれない。ただ人間が他の生き物と違うとすれば、それは自分がいじめられた後だ。今度は自分より弱い立場の誰かをいじめるか?それとも逆にいじめに加担しない側、いじめをなくして行く側になれるか?つまりは、自分自身の業を超えられるか?結局は自分自身との戦いなのだ。

 その事に皆が早い段階で気づけば、いじめは少しずつでも減っていくのではないか?そう思う。

 当時の小山田氏の家庭環境や背景に何があったかは知らない。でも深い内省をして、また公の場でその才能を生かして欲しい。もっとも既に深い内省をしていたのかもしれない。私には解らない。

 今から2000年以上昔、ある女性が不義を働いた。
皆が石のつぶてを彼女に投げる中、ある男が言いった。
「この中で今まで罪を犯したことがないものがいれば、この女をぶちなさい。」
一人、また一人と石を置いてそこから立ち去っていったそうだ。

 この男とはキリストです。私は別にキリスト教徒ではありません。でも時と場所は移れど人の営みに大きな違いは無いようです。

 さて、皆さんはいじめた経験ありますか?いじめられた経験ありますか?そして、今現在はどうですか?自分との戦い、「葛藤」とも言いますが、それに勝てていますか?もしかするとそれを成長と言うのかもしれません。
 では、また!
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