第239話 クレオパトラ

文字数 1,159文字

「先生好き」
「ありがとう、僕もだよ。」
とは口が裂けても言えないのが高校教師の世界である。そして、どうするかというと、そう言わせないように距離をとる。もしくは壁をつくる。かくいう私も今ではいいオッサンだが、高校教師だった20代の頃はそれなりにもてた。(あくまで女子高の教師だったからであって、私自身がそれ程に魅力的なわけでは決してない。)したがって、相手に単なる好意以上のものを感じれば距離もとったし壁も作った。ところが、その距離をやすやすと縮めてしまう子もいれば、壁を軽々と蹴破ってくる子もいる。

かのクレオパトラは自分を絨毯でぐるぐる巻きにさせ、エジプトの富豪からの贈り物だと偽って、カエサルの宿舎に届けさせた。カエサル、「立派な絨毯だ」とか言いながら広げると、中からポンとクレオパトラが飛び出てくる。びっくり箱ならぬびっくり絨毯だ。恋愛というのは出会いの瞬間が大事。こんな劇的な出会いはない。カエサルはこの一撃でもうメロメロになったという。嘘かほんとか解らないが、広く知られた話だ。クレオパトラに対して卑近な例で非常に恐縮だが、
「先生、私のおならジャスミンの香り!」
と豪語する子がいて、その子などは私が周囲に築いた心理的障壁を軽々と乗り越えてしまった。
正攻法で攻めまくるとか、贈り物をするとか、物理的に距離をせばめるとか、アプローチの仕方は人それぞれだろうが、とにかくその子の場合はユーモアと驚きに満ち満ちていて、私にはそれが新鮮だった!あのくらいの年頃になれば、自分の強みが何で、それをどう生かすべきか、自分でもわかっているのだろう。彼女の場合、それがユーモアやウィットだったのだ。クレオパトラではないが“知性”って最高の魅力かもしれない。逆にあなたはどうなの?と聞かれると、私などはこの年にもそれが何だか解らない。女性ってやっぱすごい。

なぜこんな話になったかというと、以前書いた『ミートゥー』という文章中の「女性社会メンドクセー。」という部分がいくら何でも女性一般に対して失礼だったと反省したからだ。いや、正直な事を述べたまでだが、何でもかんでも正直に言えばいいってもんでもない。女性からの好意を“メンドクセー”の一言で片づけてしまうのはいかにも傲慢だった。反省。 
女性のこういった恋愛にまつわる感情パワーをないがしろにした言動をとると、それこそ恐ろしいまでに手痛いしっぺ返しをくらう。私自身の為にもあのような言動は避けるべきであった。
私の個人的な経験によるならば、女性は形あるものを愛する。一番わかりやすいのが人間だ。そしてそのパワーは凄まじい。対して男性は形にならないものを愛する。真理や理想だ。どちらがより優れているとかではない。とかではないが、これまた私自身の感想としては「あぁ~男で良かった(ホッ。)」
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