第99話 居場所

文字数 1,286文字

 誰だって居場所が欲しい。欲張りなことを言ってしまえば、居場所は複数あった方がよい。たくさん居場所のある人もいれば、居場所がなくて困っている人もいる。居場所と言うのはつまり他者との関係を構築できたかという事で、逆に居場所がないというのは他者との関係を構築できなかったという事だ。そこには運も含めて様々な理由があるわけだが・・・。  
 去年、青森にいる学生時代の友人に会いに行った。学生時代散々語り合った友人だ。その友人が「ほら俺ってもう、ホームあんじゃん。」と冗談交じりに言った。私は「ホームか。学生時代の我々には出てこなかった言葉だね」と答えた。学生時代の彼は、どちらかと言うと非社交的な方だったが、社会人になって結婚し、今では小学生の男の子がいて大勢の部下を抱える身になっていた。聞けば自宅を開放して部下を呼んで食事会をしたりもするらしい。学生時代からは想像もできない事だった。彼は彼の居場所を見つけて、そして今度は誰かの居場所をつくる立場になっていたのだ。その友人と話していて気づいたのだが誰かの親になるとか誰かの上司になるというのはつまり、誰かの居場所をつくるって事なのだ。もう少し言ってしまうとマネジメントとはメンバーの居場所をつくってやることなのだ。学校の先生は単に勉強を教えるだけではなく、生徒の居場所をつくってやらねばならない。無論発達段階に応じてその役割は違ってくるが・・・。会社の上司だって部下の居場所をつくってやる必要がある。スポーツの監督だって選手たちの居場所をつくってやる必要がある。それが出来れば、後は自ずと上手くいくものなのだ。私も4月から新小学一年生が学童に入ってきて、その子たちに居場所ができるよう働きかけてきたつもりだ。初めは私の周りで遊んでいた子供たちだったが、そのうち皆友達になって子供同士で遊ぶようになる。そのきっかけになれたのではないかと思っている。子ども達の居場所をつくってやること。仲間はずれが出ないようにする事。それが何より大事なのだ。最低限の務めは果たせたかなと思っている。
 今は学童の話をしたが、これがもっと大きな組織なり国だったりした場合その頂点に立つ者、もしくはマネジメントをする者は、下にいるもの全員の居場所が出来るように働きかけねばならないのだから大変だ。すべての社員なり、すべての国民なりがそれぞれの居場所を見つけられるように心を砕く。そういう大きな優しさが上に立つものには求められるのだろう。もしかするとジョン・レノンが『イマジン』で歌ったのは「世界中の人がそれぞれに自分の居場所を見つけられるように」という事だったのかもしれない。その意味でジョン・レノンは世界中の人の上に立つ器だったのだろう。夢想家と言ってしまえばそれまでだが。
 さてジョン・レノンに比すべくもないが私もこの仕事を続けていく限り、子ども達それぞれの居場所をつくっていかねばと思う。それは誰かをスケープゴートにして他の団結を図る類いのものであってはならない。ゆっくりでもいいから誰もがそれぞれに愛着を持てる、そういうものであるべきなのだ。
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