第189話 才能

文字数 1,236文字

その昔ある皇帝が臣下の武将を捕えて言ったそうな
「お前が謀反を企てているという讒言があってな」
対してその武将は
「私にそのような思いは露ほどもございませぬ。その証拠として兵権は返上しましたし、領地はごく狭い土地を頂いたにすぎませぬ。そのことは陛下もご承知のはず。」
対して帝王は言い放つ。
「確かにお前に謀反を起こすつもりはないのだろう。しかしお前には謀反を起こすだけの能力がある。それ自体がお前の罪だ。」
それを聴いた武将は笑って罪を受け入れ、斬首に処せられたという。
この逸話を高校生の頃に読んだ私は「才能のあるやつってすごい。一度でいいからこういう気分を味わってみたいものだ。もっとも殺されるのはごめんだけど・・・」
 斬首に処せられた武将は欲がなかったのだろう。逆に言えば自身に満足していたのだろう。だが欲の深いものには欲のないものを理解することは難しい。そして理解できない存在というものは常に恐怖を伴うものだ。その意味で欲深いものとは常に臆病にならざるを得ない。いつ自分のポジションが奪われるのではないかと・・・それがこの帝王が武将を殺した一つの要因だったのではないだろうか?
それから20年。私のこのブログは当初、極々近しい人たちと、あわよくば出版関係の方々に知ってもらえたらと思って書いてきたが、いつのまにか予期していなかったほどの大勢の人に読まれるようになってしまった。それはそれでうれしいことだが、いささか困ったこともある。どうも読者の方々の中には私の存在を過大評価してくださる人が多数いるようだ。私としてはあくまで読みものとして書いているだけで現実にリンクしたような深い意味は全くない。もう少し言わせていただくなら、私が一組織人として限りなく無能に近いのは周知の事実だし、私自身、組織の中でどういうポジションにつきたいなどという殊勝な心掛けは露ほどもない。私を過大評価するのはどう考えてもお門違いだ。
もっとも私も聖人君主ではないから欲がないわけではない。ただそれは組織の中で重要なポジションを得たいとか、いわゆる権力が欲しいとか言ったものではない。私に人並み以上に欲があるとすれば、それは文章でもって自己を表現したいという強い欲求だ。本当に大それたこととは思うが、それこそ歴史に名が刻まれるような文章を残したい。そう自分では思っている。「何を馬鹿な」とおっしゃられる方もいると思うが、私だって夢くらいある。でなけりゃ毎日やっていけない。そのことをご承知の上で、私が願うのは、周囲の方々にはできるだけ人畜無害な人間としてそっとしておいてほしいという事だ。無論組織人としての最低限の職責は全うする。つまり給料分の働きはきちんとする。あくまで給料分ではあるが(笑)。幸い私の属している組織は懐が深い。私のような存在を一人や二人受け入れてくださる度量は十分にある。と思っている。本当に有難いことだ。いずれは何らかの形で恩返し出来たら、そのように思って日々を過ごしているのです。
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