第107話 そもそも

文字数 1,198文字

 その日はとにかくさっぱりしたものが食いたかった。月に一度の病院の日。午前から診察を受け、病院の近くのお店で昼食をとり、そのまま職場に向かう。繰り返しになるがその日はとにかくさっぱりしたものが食いたかった。「今日は蕎麦だな。蕎麦しかない。前回行ったあの店で食おう。あそこ店構えは古かったけど美味かった。」近くには蕎麦屋が二軒ある。一方は店構えこそ立派だがあまり美味くない。もう一方は古くてこじんまりしているが蕎麦は旨い。「あっちの蕎麦屋に決まりだ。」そう決めると診察を待つ間も蕎麦の事が頭から離れなかった。診察が終わり、支払いが済むと一目散に車に乗り込んだ。「目指すは蕎麦だ。」道順的に一軒目の大きな方の蕎麦屋を通り過ぎ、二件目のこじんまりした方の蕎麦屋に車を止める。するとなんと「本日休業」の文字が!「なんだよ、休みかよ!」どうしたものか?仕方なく車を進行方向に向かって出した。「さっきのでかい方の蕎麦屋に戻るにはどっかでUターンしなきゃならないし、参ったな。」と思いながら車を走らせていると、以前に立ち寄ったことのある横浜家系のとんこつ醤油ラーメンの店が見えてきた。「あ~もう、Uターンするのも面倒くさいし、あのラーメン屋でいいか。前食った時うまかったしな。いいやラーメンで。」とよく考えもせずにその横浜家系のラーメン屋に入ってしまった。結果とんこつ醤油ラーメンを食う事になったのだが、・・・これが我ながら大失敗だった。そのラーメン屋さんの名誉のために言っておくが決してそのラーメンが不味かったのではない。とんこつ醤油ラーメンとしてのそのラーメンは十分に合格点だ。でも、そもそもその日私はさっぱりしたものが食いたかったのだ。だから蕎麦を選んだのだ。それが何でよりによってとんこつ醤油ラーメンを食っているのか?こってりしつこい食い物の代表格ではないか?俺は何をやっているんだ!?思わず自問自答してしまった。結果、半分近くそのとんこつ醤油ラーメンを残す羽目になった。ああ勿体ない事をした。
たまにこういうことがある。そもそもの目的を忘れて、本来の主旨と違う事をしてしまう。例えばデニムを買いに行って、安くなっていたからと言ってジャケットまでついつい買ってしまう。結局そのジャケットはほとんど着ないままになる。そういう類の失敗だ。何かの本に「名将とは戦いの目的を明確に定め、それが達せられたなら無駄に長居せずに戦場を去る」とあった。どうも今回の戦い、私は愚将の極みと言うべきだったようだ。やれやれ。
 まあ何にせよ、「そもそも」って大事だ。道に迷った時は立ち止まって「そもそも」と考えなおしてみると本来の目的を再確認できるし、その方がシンプルに生きられる。ただ惜しむらくは今回運転中だったため立ち止まるわけにもいかず・・・。まあ「覆水盆に返らず・後悔先に立たず」という事で今回はこれまで。ちゃんちゃん。
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