第343話 平手打ち

文字数 632文字

 私は小学校の1年か2年の時、初めて父に平手打ちを食らった。その時のことは鮮明に覚えている。確か母の実家に帰る途中だったと思う。母の実家のあるT市は私の住んでいた山間の小さな町からすれば大都会で、そこにある大きな本屋に連れて行ってもらい、恐竜の本を買ってもらう約束になっていた。駅から妹の手を引いて歩く父の後を歩きながら、私は「いつになったら本屋につくの?」とそればっかり何度も何度もしつこく父に聞いた。すると黙って歩いていた父が突然振り返って私の頬に平手打ちを食らわせた。父は何も言わなかったが言外に「我がままばかり言っているんじゃない!」という意思がそのころの私にも伝わってきた。それ以来、私は黙って後をついて歩いた。父の行為がベストだったかどうかはわからない。でも少なくとも飴玉を与えて黙らせるとか、適当におだててあしらうとかよりもはるかにベターな選択だったと今ではわかる。

 さて、それから40年、いま私は学童につとめている。学童に勤務していれば当時の私のように何を言っても許される、何をやっても許されると勘違いしている児童がまれにいるのも事実だ。そんな時どうするか?うまくおだててその場をやり過ごすか?それとも見て見ぬふりをするか?それとも父の如く鉄拳を食らわせるか?もっとも鉄拳を食らわせるわけにはいかないので、怒鳴りつける以外にはないのだが・・・。

 我々指導員として最も楽なやり方は飴玉でも与えて、おだててやり過ごすことだ。逆に最も難儀なのはピシャリと
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