第207話 河童(原案)

文字数 1,573文字

 芥川竜之介の晩年の作品に「河童」がある。ある男が河童の世界に迷い込んでそこで河童と生活を共にするという話なのだが、これが当時の日本社会・人間社会を痛烈に風刺しており面白い。特に印象的なのは、以下の箇所だ。河童の社会では胎児に産まれたいかどうかを問い、胎児が生まれたくないと答えれば即時に中絶が合法的になされる。その際、父親の河童にこの世界に生まれてきたいかどうかを問われた胎児の返答が印象的だ。

「僕は生れたくはありません。~中略~ 僕は河童的存在を悪いと信じていますから。」

(芥川龍之介『河童』1927年より)

 胎児に産まれたいかどうかを問い、胎児が生まれたくないと答えれば即時に中絶が合法的になされる。

 高校生の時にこの小説を初めて読み衝撃を受けた。書かれている内容的には「毒以外の何物でもない」のだが、その「毒」によって自らの「毒」が中和されたように感じた。「毒を以て毒を制す」とはこういう事だろうか?おそらく当時の私は自己の存在に対して懐疑的になっていて、そんな折にこの小説を読んで、ある種の救いを見出したのだと思う。自分のような「暗闇」を感じている人がほかにもいると思い、安心できたのだ・・・前向きなことを述べるだけが救いになるとは限らないという一例だろう。「毒」が救いになることもあるのだ。ただ、この作品を発表して間もなく芥川龍之介自身は自殺して他界しているわけで、その辺りは難しいなと思う。
 なぜこんな話になったかと言うと昨日ある方とお話をする機会があり、その方曰く「自分はどうしても自己を否定しがちだ」との事。ガラスの十代を経ていいオッサン?になった私は、現在では自分自身に対して、いやに肯定的だ。むしろ島本和彦先生※の言葉を拝借するならば

「俺が地球を回す!
 この地球、誰がまわしてると思っていた?
 俺だ!そして、お前なんだよ!
 回し方を間違えるなよ、人が落ちたりするからな。。。」
(http://jironosuke.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_b834.html より)
くらいの気分でいる。こういうことを言うと眉をひそめる方もいると思うが、それくらいの心構えでよいのではないかと思う。ジョークを以て毒を制するのだ!
ジョン・レノンとオノ・ヨーコのなれそめについては以前にも書いた。(http://kirutokira.hatenablog.com/entry/2016/08/03/234805より)、彼の生い立ちを知ると見えてくるのだが、ジョン自身もやはり芥川龍之介のような「自己の存在に対する懐疑」を少なからず抱いていたのではないだろうか?だからこそオノ・ヨーコの「YES」という言葉に心を奪われたのだと思う。自身の存在を無条件で肯定されたと感じたのかもしれない。表面的な言動はともかくジョン・レノンという人は生きることに真面目な人だったのだろう。もちろん芥川龍之介も。さて、何事によらず不真面目な私としては世界中の生きづらさを感じている方々に是非、島本和彦先生の作品を読んで欲しい。まずは『逆境ナイン①~⑥』をお勧めしたい。そして感じて欲しい「地球を回しているのはあなた方一人一人なのだ!」と。

(「俺が地球を回す~人が落ちたりするからな」は他作品のセリフです。どの作品のセリフだったか思い出せないのですが、確かに島本和彦先生の作品にあったものだと記憶しています。ご存知の方は教えてください。)

※島本和彦は日本の漫画家、実業家。本名は手塚 秀彦(てづか ひでひこ)。北海道中川郡池田町出身、北海道札幌市在住。漫画プロダクション「ビッグバンプロジェクト」代表。主な作品に『炎の転校生』、『逆境ナイン』、『燃えよペン』、『吼えろペン』、『アオイホノオ』がある。(ウィキペディアより)
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