娼館の君主

文字数 5,055文字

 ※

 そういえば初めてコイツと会ったときもこんな感じだったぞ、と無駄な考えに意識を向けることで、リージェスは平常心を保つよう努めた。
 ゼラが口火を切る。
「一人足りないな」
「心配してくれるのか?」
「心配?」見下げ果てた目で見てくる。「ふむ。慣れぬことをするものではないな」
「俺はあんたが心配だ」
 どうする? 必死に考えながらリージェスも口を動かした。時間が稼げればなんでもいい。
「両手を自由にしておいたほうが落ちなくて済むんじゃないか?」
 それを聞き、ゼラは肩を竦めたが、炎剣は収めなかった。リージェスは感心せずにいられなかった。こいつ怖くないのか。すごいな。
「小娘はどうした」
 今更礼儀もへったくれもない。リージェスは吐き捨てるように答えた。
「田舎貴族ごときがあの方を小娘呼ばわりか。知らないというのは幸せなことだな」
「ゴシェ!」
 鋭い声で、ゼラが後退しながら後ろの民兵に呼びかけた。
「星獣の向きを変えろ」
 民兵の口から、返事より先に歌が飛び出した。よく訓練された兵だ。星獣が右前脚を上げ、首を曲げる。
「お前たちに話すことはない!」
 星獣の鼻先がゴミ山を掠めたら、また崩落が起きる。
「その……そう大した話は」
 リージェスの体験はこうだ。

『公爵令嬢の別荘で人殺しをしていたら公爵令嬢が現れて、裏の浜辺に月が打ち上げられているとかわけのわからんことを言うので見に行ったら本当だった』

 以上。
「とにかくお前たちに付き合ってる暇はない、道を開けろ!」
 旋律と声音が変わり、星獣がいきなり跳ねた。リージェスは尻餅をつきそうになり、手すりを掴む。振動が足の裏から脳天へと突き抜け、肩と腕に体重がかかった。
 ゼラはいつの間にやら舗道に後退し、冷ややかな目でリージェスを見ていた。だがリージェスがゼラを見つけるには時間がかかった。
 というのも、先の跳躍で星獣の向きが完全に変わり、今やテスがゼラのほうを、リージェスが道を塞ぐゴミのほうを見る形になっていたからである。
 リージェスが鞍の上を横切ってテスを押し()けると、歌をやめて民兵が怒鳴りつけた。
「いい加減にしやがれ! この方を誰だと思ってやがる!」
「ただの田舎者!」
 半ば自棄(やけ)になって言い返すと、テスが一言。
「田舎が嫌いなのか?」
 リージェスは振り向き、質問を質問で返した。
「お前はやっと言う一言がそれか?」
「じゃあ、別のことを」
 四人の男たちの目がテスに注がれる。
 テスが口をすぼめ、鋭く息を吸う。何をするつもりか理解して、民兵は咄嗟に対抗しようとした。
 リージェスは(うずくま)る。
 跳躍の旋律。それが直進の調べと組み合わされば、星獣は大きく前に飛ぶ。
「領主様!」
 二人の民兵が同時にゼラに飛びつき、庇う。彼らを飛び越して、着地。激震。舗道が割れる音がした。テスは歌う。跳躍の旋律。ゼラがあらん限りの声で左折の指示の旋律を重ねた。
 星獣が左へ飛ぶ。ゴミ山の斜面へ。
 テスが歌う。歌う。星獣のガラスのように硬いの蹄がゴミ山の凹凸を掻く。
「上がれ! 上がれ!」
 歌も言葉も虚しく、重い星獣は脱穀機、テーブル、鏡台、行李(こうり)の上をもがきながら滑落していく。リージェスはゼラに八つ当たりした。
「この馬鹿!」
 もっとマシなことは言えないのかとリージェスは己に絶望した。
 崩落するゴミが立てる音の中から民兵が叫び返す。
「馬鹿だって!? この方は農地改革でグロリアナの生産高を十五パーセントも向上させたすげぇ先代の御子息なんだぞ!」
「それがどうした!」
 テスが二の腕をつついた。顔を向けると、彼は柵の向こうを指差した。
 滑落を止めようと、あわよくば這い上がろうともがく星獣は、ゴミ山を形成する傾斜と傾斜の谷間にいた。
 谷間は狭いが平坦で、(なら)されたゴミの上を板が覆っている。
 道が隠されていたのだ。
 先に行け、と、テスが手の動きで指示する。リージェスは頷き、余計な振動を与えるのも構わず柵の上に手をかけた。
 飛び降りる。
 目を閉じたいのをぐっと堪える。板が迫り、その平坦な木道(もくどう)へと、転がりながら着地する。衝撃を受けても揺れはなかった。木道は意外としっかりした作りをしていた。
「俺だって北方領に帰れば都の評議会議長の息子だぞ!」
 続けてテスが降りてきた。
「それがどうしたんだ?」
「うるさい!」
 歌い手を失った星獣がゴミの斜面から消えていった。二人は立ち上がり、道の塞がっていないほうへ、すなわちミナルタ旧市街のほうへ走り出した。
 音を立てて、ゴミ山は崩れ続けた。
 その音は収まるどころか、むしろ大きくなる。
 走りながら振り向いて様子を確かめたリージェスの視界に、ゴミの斜面から、大きな物体がせりあがってきた。
 星獣だ。
 大きく前脚を上げ、跳ね上がる。
 御者席にはゼラがいて、冷たい表情、それでいて熱く燃える目で、リージェスをひたと見据えていた。
 二人の民兵を背に乗せて、木道を激しく揺るがせながら星獣が着地した。

 ※

 リレーネはすぐに旅の仲間の心配どころではなくなった。塵埃(じんあい)の中、長髪の剣士が、リレーネの手を掴んだまま長く走り続けたからである。
 旅でいくらか鍛えられたものの、とうに息は上がり、ただ引きずられないように必死に足を上げるばかり。だが、慣れてくれば、この男もリレーネの身体能力に極力合わせて駆けていることがわかってきた。足場も選んでいる。手首を掴む力も、苦痛に思うほど強くはない。
 遠くで再びの崩落。
 リレーネは初めて男を拒絶し、立ち止まって膝と踵に力を込めた。砂礫に跡を残し、リレーネは停止する。男もすぐに立ち止まり、意外にも手を放した。リレーネは支えを失って、砂の積もった橋の上に膝をついた。
 心臓が脈打っている。顔も体も熱く、息はすさみ、喉は痛み、一度膝をついてしまった以上、もう立てないと思うほどだった。
 だが男は命じる。
「立て」
 リレーネは顔を上げず、沈黙によって命令を拒んだ。ゴミ山は崩れ続ける。ひどく遠く聞こえる。かなり走ったようだ。
 殴られるかもしれないとリレーネは思ったが、男はリレーネの息が整うのを待っていた。
「あの方は」
 息の切れ目に言葉を吐く。
「あの方たちは――」
 未だ名を知らぬ男は、感情の窺えぬ声で静かに問いかけた。
「死んだと思うか」
 強くかぶりを振る。
「ならば立て」
「何故あのようなことを」
「足止め程度は当然のこと。彼らを殺すつもりがあるのなら最初からそうしていた」
 この男は口先だけでなく、実際に、彼らに打ち勝ち得たのだろう。テスのダガーを弾いたときの剣(さば)きを思い出す。今リレーネを腕力で従わせようとしないのも、単に腕力に訴えるつもりがないからだろう。
 途方にくれて顔を上げる。
 見上げれば、男は無表情。
 その顔の向こうに広がる曇天に、予期せず希望を見出した。
 輪を描いてのんびり飛ぶ、一羽の大きな鳥。
 昼星。
 リレーネは立ち上がる。
「もうエスコートは結構ですわ」
 毅然としていなくては。
 リージェスたちは最善を尽くす。
 自分もそうするのだ。
「自分で歩けます」
 別段驚きを見せるわけでもなく、男はリレーネに背を向けて歩き始めた。もちろん、この男は決して油断していないことを、リレーネはわかっていた。
 星獣に乗っていたときは気がつかなかったが、道はゴミの陰に隠れながらもいたるところで分岐していた。先導者たる剣士は体を斜めに傾かせて狭い隙間に分け入り、迷いなく、緩やかにカーブする下りの道に入っていく。
 人の気配がするようになった。
 左右を圧迫するゴミ山が低くなる。
 異臭の中に焚き火の匂いが感じられるようになった。誰かが魚を焼いている。
 そしてリレーネは、ミナルタ旧市街に戻ってきた。
 焚き火を囲って魚を焼く少年たちが、ゴミ山の間から現れたリレーネをニヤニヤしながら凝視した。通りの両側の建物は、二十階建てか、二十五階建てか、文明退化の浅い時期に造られた建物の例に漏れずとにかく高い。無個性の四角い窓にはガラスが割れずに残っているものもあり、中年の婦人が茶を飲みながらリレーネを見下ろしていたりもした。
 高い建物の下には、横木を渡し、鳥を商う男がいた。小鳥たちは籠に入った状態で積まれているが、純白のオウムたちが足環もないのに大人しく横木にとまっているのがリレーネの目には印象的だった。
 鳥の露店の隣は酢を売る店。つんと鼻を刺す匂いの中を、道の向こうから子供が荷車を引いてくる。乾燥した玉葱が積まれていた。
 ここには秩序があった。覚悟していたほど恐ろしい街ではないのかもしれない。
 男が左に曲がる。
 高い建物の間は長い上りの階段となっており、顔を上げれば、階段の上に、緑色の鉄の門が見えた。
 門の向こうには冬枯れの庭園と、白塗りの館。耳まで覆う帽子をかぶった老人が見張りに立っていたが、男の姿を見ると黙って門を開けた。訝しげにリレーネを見る。が、男が老人に何事か囁くと、黙ったまま、手だけで早く入るよう促された。
 門の閉まる音を聞きながら庭園を横切る。アーチ型の両開きの扉から、館の中へ。円形の大理石のホールは吹き抜けで、扉の上の大きな窓のおかげで採光は十分。空が曇りでなければさぞ美しい光が注ぐだろう。
 優雅な弧を描く二本の階段が、来客を上階へと(いざな)っていた。男に続き、二階へ登る。その先の重たげな扉が開かれた。
 扉の先は一転して暗く、眼前に伸びる絨毯の緋が冴えるのみ。赤絨毯の廊下の両側には扉の開いた部屋が並ぶ。男について廊下を渡るリレーネは、何気なく部屋の一つを覗き込んだ。
 カンテラの灯が揺らめく中で、一糸(いっし)纏わぬ姿の女が足を広げて横たわり、腹に毛布をかけていた。
 それを見て、ここがどういう施設なのかリレーネは理解した。
 となると、閉じた扉の向こうから聞こえるささやかな声が気になって仕方がない。
 リレーネは三歩先を行く男の背に垂れた長い三つ編みを見つめて考えた。
 あの、つまり、あなたが私をここに連れてきたのは、こういう……。
 その問いを口に出す覚悟がないまま奥の扉にたどり着いた。
 扉の向こうは明るかった。大きな窓がある階段室だ。先に階段室に入った男は、振り返り、立ち竦んだように動かないリレーネの考えをすぐに見抜いた。
「何を誤解している。ここに君のための個室はない」
「では何故私をこの場所へと導かれたのです?」
「すぐにわかる」リレーネの顔色を見、「恐れることはない」
 立っていても始まらない。最善を尽くすと決意してからまだ一時間と経っていなかった。とにかくリレーネは動き出す。足を前へ。
 たとえ(よこしま)な意志で連れてきたのではないとしても、この人を許さない。リレーネはそう思っていた。白い階段を上り始める男の背を睨む。私があなたを許すのは、リージェスさんとテスさんの無事を確認できてからですわ。
 五階へ上った。そこが最上階だった。廊下に出るとそこには大きな扉がただ一つ。男がノックすると、向こうからやけに色っぽい女の声がした。
「影」
 男が鍵穴に向けて言う。
(いかり)
 合言葉だ。すると、最初とは別の女の声が実に嬉しそうな響きを(たた)えて返ってきた。
「おお、その声はヨリスか! よくぞ無事に戻ったのう」
勿体(もったい)なきお言葉、光栄です」
「門衛の合図じゃ二人おるそうじゃが、誰を連れてきたのじゃ?」
 鍵が開き、ヨリスと呼ばれた男はゆっくり扉を押し開ける。
 (しゃ)と房飾りで彩られた広い台座。
 脇息(きょうそく)にしなだれかかり、若い女が横になっていた。
 生地の薄いドレスから、褐色の太腿があらわになっている。
 筋肉質でしなやかな腕。がっしりした首。耳を飾る金の()と、知性と生命力で満ちた水色の目。水色がかった銀髪が、その目にかかっていた。
 その女の好奇心に満ちた視線を受け止めるしかないリレーネの前で、マグダリス・ヨリス少佐は驚くべきことを口にした。
「北方領総督が御息女、リレーネ・リリクレスト殿下をお連れしました」


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


----------------------------------------------


◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


----------------------------------------------


◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


----------------------------------------------


◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み