私はアイマ

文字数 4,747文字

 2.

 よく教育されたコブレン市民は、外で騒動が起きている間は窓や戸口に近付かない。最後の断末魔が消え去ってから十分ほどしたら、沈黙するあらゆる窓の向こうで人影がちらつき始める。人が外に出てくるのは、それからさらに五分ほどしてからだ。
 日輪連盟軍の一分隊が現場に駆けつけたとき、彼らはまず大声で市民を散らさなければならなかった。民衆が死体漁りをしたり、死体を蹴ったりしていたからだ。それでも星獣兵器を蹴飛ばす勇気のある者はいなかった。
 散り散りになる民衆に紛れ、レミも岩塩道路の門前から離れた。
 この目で見た限り、星獣兵器は破壊されていなかった。いずれ連盟の歌流民がやって来て、再起動させるだろう。
 問題はそこじゃない。
 問題は、第一に、三体の星獣兵器の歌を上塗りできる歌い手がいること。第二に、日中に堂堂と死体の山を築ける技量と胆力の持ち主がいること。第三に、その両者が行動を共にしている可能性が高いこと。最後に、それが何者なのか、自分たちには見当もつかないこと。
 コブレン自警団の残党?
 まさか。あり得ない!
「みんなどうかしてんのさ」
 怒りまじりの呟きが頭上から降ってきた。小太りの中年女性が、葉を落とした庭木に梯子をかけ、星獣祭の飾りつけを始めていた。
「星獣祭はもうすぐだってのに、だぁれも準備しない。それじゃ間に合わない、間に合わないんだよ」
 悪意なんだ。レミは思った。この世界には悪意がある。
 そう思ったのは、雪が降ってきたからだ。
 太陽が急速に沈んで早すぎる夜がきたあの日、市街は狂騒に陥り、コブレンを占拠する日輪連盟軍の将兵たちは木偶(でく)の坊と化した。レミは眠った。二人の仲間、ジェスティもアスターも眠った。そのうちに、狂騒が誰かのすすり泣きに変わって、レミは起きることにした。彼女たちは隠れ家を一日ごとに使い捨てにしていたので、次の安全な場所を探しに行こうと思ったのだ。外に出た。そして見た。よく晴れている空を。西の方角が明るかった。太陽が、沈んだのと同じ稜線から舞い戻ってきたのだ。
 そう、悪意なんだ、あのとき晴れていたのは。天に秩序はない。それは失われた。星獣祭は来ないって、その前に世界は終わるって、そう知らしめるために晴れていたんだ。西から昇る太陽を見せるために。
 被害妄想だと、レミはわかっていた。全く歩調を変えることなく曲がりくねった路地を縫い歩く。自分に問いかけた。悲観や被害妄想を心地よく思うほど私は疲れているの? 参っているの? まだ自分の仕事を終わらせていないのに?
 否、否だ。使命がある。
 やることさえあれば、まだ生きていられる。

 ※

 レミは頭から粉雪を浴びながら小さな家に戻った。住宅というより小屋と言ったほうがいいような、一間(ひとま)しかない板葺きの建物だ。
 まず引き戸の前で、左右の靴底の雪を落とす音を四回ずつたてる。引き戸を細く開き、それから自分一人が通れるぶんだけ開き、中に滑り込んだ。
 竃の火が照らす屋内に、二人の仲間がいた。ダガーを腰に帯び、出入り口の番をするジェスティ。隙間風が吹き込む板壁にもたれかかって目を閉じているフーケ一門の問題児、アスター。爪先がリズムを刻んでいる。
「アスター」
 声をかけようとするジェスティを無視し、レミは大股で小屋を横切った。アスターのもとへと。
 そして、その胸倉を掴んだ。
「聞け」
 前後に揺さぶる。アスターは気怠げに目を開けた。
「乱暴だなあ。人がせっかく音楽を聴いてるのに」
 音楽が鳴っていないのにどうやって音楽を聴いているのか知らないが、レミは無視して本題に入った。
「連盟軍を挑発した馬鹿がいる」
「いつもの?」
「いつもの辻斬りか、っていう意味なら違う。星獣兵器の移送部隊が皆殺しにされた。岩塩道路側の門に詰めていた兵士も全員だ」
 それで、アスターも話を聞く気になったようだ。レミが手を離すと、アスターは竃の前に歩いていき、胡座(あぐら)を組んで質問した。
「星獣は?」
「動きを止めていた」
「そんなことができる人は多くないはずです」ジェスティが口を挟んだ。「クララ姉さんが生きてたりして……」
 それを聞き、レミの胸は痛んだ。もしあの冷酷なクララ、素晴らしい歌い手でもあった毒蛇クララが生きていたら、妹弟子のジェスティにこう言ってやっただろう。
『私はもうあんたの姉さんじゃないよ。あんたは一人前になったんだ』
 こうも言う。
『目先の事象一つで根拠のない希望を抱くな』
 レミとて、ミラとトビィとアズが生きているという希望を抱くことができたらどんなに心が救われることか。
 結局、レミもアスターもジェスティには答えなかった。
「で、レミは誰かが挑発のためだけに死体の山を積み上げたって思ってるの?」
「まさか」
 さりとて星獣兵器を奪うでも、破壊するでもなし。
 目的がわからない。
 誰かが、家の外で左右の靴を四回ずつ鳴らした。三人の目が戸口に集まった。引き戸が細く開き、この家の本来の持ち主が姿を見せる。
 家主の少女は粉雪と共に入り込み、引き戸を閉ざした。砒素(ヒそ)によって脱色された、雪のように白い手の少女。彼女は明らかに、好ましくない客たちを見ないようにしていた。継ぎ当てのあるマントの肩を払い、雪を落とすと、竃の前に立ち、大鍋を覗いた。
「悠長な毒殺だね」
 アスターの声に震え上がり、少女は鍋の蓋を落とした。
「君は砒素しか扱ったことがないのかな?」
 薄笑いを浮かべるアスターに、はいともいいえとも答えず凍りつく。
 自分に都合のいいように、アスターは聖典を引用した。
「『甘くとも苦くとも、収穫は(おの)が舌で味わえ』」
 火の前にいながら、少女は小刻みに震えている。その句が引用された意味がわからないのだ。
 今は、まだ。
「そういえば、僕たちはまだ君の名前を聞いていなかったね」
「アイマ」少女は、この質問には難なく答えた。「私はアイマ」
「ふぅん、アイマちゃんね。アイマ、僕は君に青酸を渡すことができる」
「アスター、やめな」
 やめなかった。
「青酸ってわかる? わかるよね。君は

だもの」
 アスターは腿にベルトで縛りつけた小さな鞄から青い瓶を出して見せた。
「特定の植物の種子や害虫から採れる毒物で、君が憎む相手にかなりの苦痛を与えることができる」
「確実な死も」アイマの声は細く、しかも陰気だった。「ありがとう、でもいいです。私は自分の手でやり遂げたいの」
「君はこれから北ルナリア副市長の昼食に砒素を混ぜに行く」
 アスターは瓶を鞄に戻した。立ち上がり、竃を迂回して、アイマの後ろに死のように寄り添った。
「そこで目にする星獣がらみの騒動を、細大漏らさず僕たちに報告してごらん。それが君たち一家の過去の所業について、コブレン自警団が不問に処す条件だ。だけど」
 笑いながら、青酸の瓶を少女の手に押しつけた。
 囁く声は笑っていなかった。
「君が北ルナリア副市長を殺すのは、僕たちが『やれ』と言ってからだ」

 ※

 数分ののち、アイマは自分の不快な家からまろび出た。数日前までは、両親と弟の思い出が詰まった家だった。家族の気配だって残っていた。あの拷問者や暗殺者たちが押しかけてくるまでは。だが、そういうアイマの一家は毒殺者だったのだ。そのことはアイマ自身がよくわかっていた。だからこそ、心の整理のつけようがなかった。
 新雪を踏んで走り、大通りでよろめきながら歩を緩めると、あとは市庁舎の使用人出入り口まで肩を落とし歩いた。涙が出ていたが、寒気で目が乾いたからだ。何も悲しくはない。不快なだけだ。
 雪は激しくなり、アイマが市庁舎にたどり着いたとき、藍染めのマントのフードの色は純白に変わっていた。通用門に二人一組で立っている、見慣れた顔の衛兵に木彫りの通行証を見せた。いつもの通り、衛兵は不機嫌な様子だった。八つ当たりされる前に姿を消せとばかりに荒い手つきで門を開く。肩をすぼめ、アイマは本庁舎の裏口へ急いだ。
 庁舎の外は静まり返っていたが、中はそうでもなかった。裏口の戸を開くなり、眼前の廊下を二人の役人が走り抜けていった。アイマは雪から解放されて息をつき、マントのフードを脱いで戸を閉めた。
 厨房へと廊下を渡る。
 一つの扉の前を通るとき、中で誰かが大声をあげるのを聞いた。
「死体の収容所すら決まらんとはどういうことだ!」
 四角い中庭を挟んだ回廊に出る。兵士たちが小声で話していた。
「後発部隊はもう出たのか?」
「ああ」
 兵士たちはアイマに気付くと話をやめた。アイマは(おもて)を伏せて彼らの前を通り過ぎた。
 やがて庁舎の一番奥まったところ、土間に井戸がある厨房に到着した。厨房の高い天井には蒸気が渦巻いており、スープが温かく香っていた。
 二人の給仕が興奮して囁き交わしていた。
「コブレン自警団の生き残りがやったのよ。他に誰がいるの?」
「シッ! そんなこと聞かれたら……」
 アイマは聞いた。
 目配せした二人の若い給仕は、厨房の入り口に現れたアイマにすぐに気がついた。だが、彼女たちにとってアイマは話を聞かれて困る相手ではなかった。栗色の髪の給仕は、露骨に嫌そうな顔をしてアイマから離れた。一人残った水色の髪の給仕は、厨房の中央に二列に並ぶ竃の前で、鋭い目つきでアイマに嫌味を言った。
「今日はずいぶんお早い到着ね。もうお腹ぺこぺこって感じ?」
「仕事は早いに越したことはありませんから」
 嫌味の通じていないふりをすることが、アイマにできる精一杯の抵抗だった。
「じゃあさっさと汚い上着を脱ぎな、乞食(こじき)!」
 言われる前に、アイマは冷たい無表情でマントを脱ぎ始めていた。それもまた抵抗だった。
 やがて、今日の上級役人の昼食がアイマの前に少量ずつ並べられた。
 何百年も昔から毒味者の席と定められた卓につき、アイマはそれを口に運ぶ。
 胡麻とヒマワリの種が練り込まれた滋味豊かなパン。
 カブと押し麦のスープ。
 マスの煮付け。
 ほうれん草のムース。
 食後には、様子を見るための時間が十分置かれる。その間、アイマは厨房にいる十数人の厨房係や給仕の声に耳を傾けた。
 雑談のほとんどがその場にいない他人についての話で、コブレン自警団の暗殺者たちが欲しがるような情報はなかった。
「さあ、配膳だ!」
 十分経ち、給仕長が声をあげた。
 コブレンの戦いまで、アイマ一家の仕事は毒味だけだった。十一月十七日の夜明けにコブレンが陥落して以来、一家はアイマを残して世を去り、仕事は給料据え置きのまま配膳と皿洗いの手伝いが加わった。でなければ、どうしてアスターが言うところの『悠長な毒殺』ができようか。
 標的ジェレナク・トアンの食器は青地に白い花模様の一揃えで、わざわざ北ルナリアから持ち込まれた気に入りのものだった。
 スープが盛りつけられたトアンの器をトレイに運ぶとき、アイマは器に右手をかざした。アイマの右手の親指と人差し指の爪の間には、魔法の白い粉がたっぷり詰まっているのだ。
 満足のいく純度ではない。
 量も多くない。
 だが、この粉を器に落とし続ければ何が起きるかアイマは知っていた。トアンの肌が黄ばみ、薄茶色に変わり始めるのだ。手足に斑点ができ、そのことで、きっとトアンは不安になる。同時期に胃腸の働きが落ち、なんとなく具合が悪いと感じる時間が長くなる。
『悪質な風邪だ』と彼の侍医はきっと言う。だがトアンには手足にできる斑点の理由がわからない。ときおり胸の動悸が激しくなる理由がわからない。加齢か? そうだ、加齢のせいだ! 彼は自分に言い聞かす。
 侍医は彼に心臓病の薬を出すかもしれない。
 北ルナリアに戻って休養するよう勧めるかもしれない。従うか? 従わないだろう。
 アイマはスープ皿をトレイに置いた。
 そう。
 トアンは死ぬ。


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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