攻城戦/レライヤ城砦の戦い

文字数 4,396文字

 4.

 レライヤ城砦を目前とした狭小な戦場に、月環同盟軍全軍が押しかけていた。兵站・輸送部隊は後方で円陣を組み、その左側面をモーム大佐の予備部隊が守る。
 日が沈み切ると同時に月環同盟左翼が日輪連盟騎兵部隊の急襲を受けた。予備の弓兵隊がこれを撃退すると、次は右翼が攻撃を受け始めた。
 頭上には天球儀が輝き、雪雲の切れ目には赤い星雲が絹を広げたように展開されていた。城砦には篝火が焚かれ、歩廊に居並ぶ連盟の弓兵たちが影のように蠢いていた。
 しばらくは様子見の攻撃が続いたが、月環同盟に後退の意思がないと見るや、全面衝突が始まった。
 同盟は守りの薄い陣地右翼に集中攻撃を受けた。その背後は森で、戦況が悪化すれば森に逃げ込んで騎兵の追撃を防ぐことができるが、その場合背後で円陣を組む非戦闘部隊が蹂躙され、同盟の部隊正面は背後を取られることになる。
 右翼を指揮するのはミナルタ市を始めとする同盟諸都市の軍勢で、それにはシオネビュラ民兵団、グロリアナのソレリア民兵団も含まれていた。
 その右翼部隊がじりじりと森へ押され始めたとき、状況が動いた。
 正面のシオネビュラ神官団と交戦していた日輪連盟部隊が、劣勢となった月環同盟の右翼側に流れると、連盟の正面と左翼の間に間隙(かんげき)が生じた。
 動いたのは、シルヴェリア率いる南部ルナリア独立騎兵大隊。シルヴェリアは大胆にもこの間隙を正面から突破して、連盟軍正面の背後に回り込むと、これを攻撃し始めた。
 主力部隊が挟撃にあい劣勢と知ると、日輪連盟左翼部隊は後退を始める。
 これらの流れは、最初の戦闘から一時間程度の出来事だった。まだ同盟の攻城兵器の出番ではなかったが、日輪連盟軍の星獣兵器の出番が来たようだ。
 レグロがその兆候を掴めたのは、僅か一部隊の騎兵に急襲された日輪連盟軍が長槍部隊を立て直そうとせず、後退する自軍左翼部隊の流れに合流して城塞の門へと押し寄せ始めたからだった。連盟の前線が後退し、重歩兵部隊が前に出て撤退を支援。
 連盟軍の背後でレライヤ城塞の鉄格子の門が上がっていく。
 門の中の闇で、悲鳴が上がった。誰かが押し潰されたのだ。
 星獣兵器のお出ましだ。

 ※

 日輪連盟の兵士は、己の軍の兵器から逃げ惑っている。シルヴェリアの目にはそう映った。
 レライヤ城塞の攻防に投入された星獣兵器は、コブレンでの実戦で性能を証明されたものだった。まず、象牙の歌を打ち鳴らす、蛙脚の象――兵士たちの多くは無学であり、象という生き物を図録ですら見たことのないものがほとんどだ。よって左右に散開した日輪連盟の重歩兵の間から姿を現したそれは、既存の生き物の組み合わせではなく、全く未知の生物と兵士たちは認識しただろう。これはよくない。未知は恐怖を増幅させる。
 シルヴェリアは騎兵隊を素早く後退させ、自軍左翼後方の予備部隊にできる限り近い位置に戻ろうとしていた。そうしながらも、自らはいよいよ危険が迫るまで星獣兵器の姿を目視で確認し続けた。
 いかにも星獣兵器は、亡きカーラーンの報告にあった通りのものだった。象と体と蛙の脚を組み合わせたもの、四枚の赤い刃の翅を持つ蝶、一角獣。
 第一陣はその三体だった。
「あら、たったの三体だなんて」
 逃亡したレナに代わって南部ルナリア独立騎兵大隊の副官を務めるフェンが、シルヴェリアの隣で嫣然(えんぜん)と微笑んだ。
「私たちが何の対策もしてこなかったと思っているのかしら」
 日輪連盟の軽装部隊は、我先にと城塞の落とし戸の向こうに撤退する。重歩兵が城門を守り、両翼を騎兵が支援する。
 最前列には星獣。
「フェンや、慢心するでないぞ」馬上のシルヴェリアは、冷酷で好奇心に満ちた笑みを浮かべた。「これは賭け、博打じゃ」
 戦場にあるまじき沈黙。
 月環同盟軍は怯むことなくシオネビュラ神官団を前衛正面に置き、強行突破の布陣。他の部隊も開戦前とほぼ同様に展開していた。そこに、鈴打ち鳴らす象牙の歌が、場違いに小さく流れている。
 城塞の歩廊から、突撃の喇叭が鳴り響いた。
 喊声(かんせい)
 月環同盟軍もまた、一斉に旗を振り上げまたは振り下ろした。それらの信号旗の意味するところはこうだ。

『右翼部隊、森に後退し散開せよ。正面部隊は陣形を維持し左翼に寄れ。非戦闘部隊及び予備隊は持ち場を固持せよ』

 これによって後方の非戦闘部隊は無防備となる。
 指揮官が人間であれば、これは罠だとすぐにわかったはずだ。だが星獣兵器は(けだもの)、いいや、獣以下だった。
 まずは赤い蝶の星獣が、背中を向けて森へ逃げ込む右翼部隊に襲いかかった。逃げ遅れた兵士たちがその背中から切り刻まれる。ある者は一撃で命を落とし、ある者は血を流しながら大地に倒れ込んだ。
 血の匂いと悲鳴に引きずられるように、他の二体の星獣が右翼に首を向ける。
 指揮部隊のレグロが信号を発した。

『工兵隊、攻城戦を開始せよ』

 シオネビュラの星雲旗が翻り、喇叭が高らかに悲鳴を裂く。ねじりばね式のバリスタが十台、投石機が十二台、最後に二台の攻城塔が、車輪で大地を掘り返しながら前進を開始する。月環同盟の左翼で主力部隊が対人戦闘を開始したとき、三体の星獣兵器は同盟の右翼へと、その背後の森へと誘導されていた。
 星獣兵器を意に介さず、攻城兵器が前進する。それらは城塞の歩廊に立つ弓兵たちの射程に入る直前で前進をやめた。
 投石機のスプーン状のアームに岩石が載せられる。巻き上げ機を使ってロープをねじり、負荷をかけた状態で待機。全てのバリスタもまた弦が引かれ、城塞の歩廊にいる兵士たちに狙いが定められた。
 城塞の落とし戸がもう一度開かれ始める。状況を把握した指揮官が、追加の星獣兵器を投入しようとしているのだ。
 城門前を守る重歩兵の戦列が割れる。そのときを待ちわびていた工兵部隊の指揮官が叫んだ。
「撃て!」
 投石機の解放されたアームが勢いよく立ち上がり、岩石が空を切った。城塞に激突し、土埃が舞い上がる。剥がれ落ちた石片が真下の重歩兵たちに降り注ぎ、隊列が乱れて新たに投入される星獣の進路を塞いだ。さらに彼らにとって悲惨なことに、バリスタの直撃を受けた城塞の上の仲間たちが何人も、頭上から落ちてきた。
「進め、進め!」
 月環同盟の指揮官たちが、騎兵が、歩兵が、降り注ぐ弓矢にも構わず勢いづいて叫ぶ。進撃せよ!
 だが月環同盟陣地左翼の攻勢に反して、右翼は惨憺たる有り様を見せていた。
 今や星獣兵器を一手に引き受けることとなった諸都市連合部隊は、背中を見せて逃亡することで星獣たちの闘争本能をこれ以上なく刺激していた。
 次々と友軍が逃げ込む森の手前で、ソレリア民兵団が立ちはだかり、ただ一部隊、奮戦していた。
「逃げる者は容赦しない!」
 若きグロリアナ領主ゼラ・セレテスは、剣を振り上げて兵士たちに呼びかけた。
「味方の後退を援護せよ! 一兵卒たりとも見捨ててはならない! 我らがグロリアナの栄誉のために!」
 家族に対する一生分の恩給を約束された田舎町の兵士たちが、領主に呼応する。
「グロリアナに栄光あれ!」
 その恩給が何を意味するのか、兵士たちはほとんど何も考えていなかった。あるのは恍惚とした昂揚、動物的な一体感、履き違えられた運命論。自らの領主によって、『英雄的で悲劇的な』死に付き合わされるのだと考えた者はいない。
 赤い蝶の星獣が、自ら盾となったグソレリア民兵団の隊列に突っ込んできた。剣の翅に切り裂かれ、血飛沫が上がる。
「怯むな!」ゼラの檄を受けて、槍を持った兵士たちが星獣に殺到する。「コブレンの戦いにて証明されている! それらは強力であるが不死身ではない! 突っ込め!」
 それでもソレリア民兵団の隊列は見る間に薄くなっていく。
「領主様をお守りしろ!」
 兵士たちは誰に言われたでもなく、ゼラを中心に方陣を組んだ。その方陣に星獣が殺到し、一角獣の角が、象の鼻が、蝶の翅が、押し潰し、刺し貫き、切り裂く。森の廃墟で奇病に侵された領民を匿っていた民兵たちが、斬り刻まれた。旧ミナルタでゼラに従順に付き従っていた兵士たちが踏み潰された。
「戦え、戦え!」
 最後に、ゼラ自らが剣を振りかぶり、星獣兵器に突っ込んでいく。
「グロリアナに栄光あれ!」
 そのゼラも、赤い蝶の星獣に首筋を撫でられ、地に崩れ落ちた。赤々とした血を、ゼラと彼の部下たち血を、大地が貪欲に飲み干していく。
 そして星獣が森の餌場に殺到する、そのときだった。
 歌が始まった。
 命からがら森に逃げ込んだ最後の部隊の耳にもまた、その歌詞のない歌が届いた。耳慣れぬ旋律と、不快な抑揚。森に散開した兵士たちは、森の中を進んでくる松明、歌う兵士、松明に照らし出される旗を目撃した。
 先頭に立つのは、白馬にまたがった瑠璃色の髪の若者。白い詰襟の、神官団の戦闘服。階級は正位神官将。槍を手に若者を守る兵士たちもまた歌っている。
 その、鯨と虹の旗は。
「ヨリスタルジェニカ神官団だと?」
 誰かが叫んだ。
「馬鹿な! タルジェン沖で姿を消したはずだぞ!」
 それを耳にするや、馬上の神官将シンクルス・ライトアローは歌を止め、声を張り上げた。
「皆の者、歌え!」
 海の神官団は、森の中を歌いながら前進していた。
「我らに(なら)い、歌え!」
 その命令の意味するところを理解した者はいなかった。だが兵士たちは、命令を受けるとそれに従い始めた。
 ヨリスタルジェニカ神官団に続いて、シオネビュラ市防衛に残されていたはずのシオネビュラ神官団の予備部隊が現れた。ヨリスタルジェニカと同じく歌っている。誰か器用な兵士が、いち早く奇妙で不愉快な旋律を覚え、口ずさみ始めた。
 そうすれば、暗い森に散ってどうすればいいかわからない他の兵士たちも、自然とするべきことを見つけた。歌うのだ。
 自ら最前線に立ち、森を抜けたシンクルスは、眼前に巨大な赤い蝶が落ち、もがいているのを見た。今や森全体が歌っていた。投石の轟音と、騎兵と騎兵が、歩兵と歩兵が切り結ぶ戦場の騒音の中で、象の星獣は溶けて形を失い始め、一角獣の星獣は、その角を起点に体を硬化させつつあった。
 どの星獣も、少しずつ粉になってかけらを大地に撒き散らしていく。
 その危機的状況を、城塞に立つ日輪連盟の指揮官は目撃し、理解したはずだ。
 これが星獣の弱点だ、月環同盟は掴んでいる、と。
 上げられた落とし戸の中に、連盟の兵士が引き上げていく。まず散兵が、次に騎兵が、最後に重歩兵が。城塞の上では弓兵たちが姿を消していた。
 せめてもの時間稼ぎにと、城塞に火が放たれた。見捨てられて戦意を失い、捕虜となる重歩兵たちの後ろで、石造りの城塞の窓という窓から赤々と火が噴き出す。その後ろでは、都に至る山道を、率先して逃された星獣たちが燐光を放ちながら遠ざかっていく。
 それら全ての戦いの様相を、天球儀の輝きが見下ろしていた。


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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