傷は今も

文字数 4,721文字

 3.

 ゴミ山に分け入れば、葉脈のように入り組んだか細い道が通っていることに、リージェスもゼラもすぐ気付いた。どの道がどこに通じているか、どこが崩れやすくどこが塞がっているかわかったものではない。だが条件は両者とも同じこと。
 積み上げられた馬車が、(ひさし)のように道にかかっていた。
 テスが馬車の下に潜り込む。片膝をついた姿勢でマントの中に手を入れた。灰白色のマントと同じ布地の布を取り出して、手早く頭に巻きつける。これで目立つ暗緑色の髪は隠れた。テスはもう何十年も客を乗せていないであろう馬車の下をくぐり抜け、道の向こう側に出た。
 リージェスは走りながら馬車の下の隙間に足から突っ込んだ。滑り込み、曇天の鈍い光から馬車の影の下へ、馬車の影からまた鈍い光へと顔を染めれば、下のほうで振動と轟音が起きた。ゴミ山が震え、墓石と教会の説教台に支えられていた馬車が斜めに傾いた。(まさ)に間一髪。馬車の下の道は埋まり、滑り込みの姿勢から勢い良く立ち上がったリージェスは、前のめりになってテスに激突した。
 テスがよろめき、右手をゴミ山につく。彼がその手で押したのは翼の折れた天使像。天使像はぐらついて奥の棺桶(かんおけ)を押し、棺桶は不安定な斜面を滑り灰色の街灯を押した。街灯は転がりながら使途不明の太古の機器類、太古のポンプ、やたら大きな太古のベアリング、太古のボルト、太古のナット、かと思えば日頃見慣れた鶴瓶(つるべ)や糸車などの日用品及び器具、鉗子(かんし)、乳母車、裁縫箱、金庫、牛の頭蓋骨、ベッドそして再び太古の非鉄金属や太古の乗り物と(おぼ)しき大きな箱を巻き込んで、惑星アースフィアの人類史の地殻変動を起こしながら盛大に崩れ落ちていった。
 リージェスもテスも、自分が何を目にしているのかよくわからなかった。わけのわかる物とわけのわからぬ物の圧倒的質量の流動。不仲の二人は仲良く立ち尽くし、だが先ほど馬車を落とした振動の(ぬし)である星獣の蹄の音が自分たちの背後に迫りつつあるのを聞きつけて、身を隠すべく屈んだ。
 馬車に体の左側を押しつけるようにしゃがみ込むと、大きなものの気配が頭上を通り過ぎ、リージェスの体のすぐ右側に着地した。
 体が浮き上がるほどの振動。星獣の疾駆。木道が(かし)ぐ。ゼラたちを乗せた星獣は、間近のリージェスに気付くことなく走り去っていく。これを千載一遇の機と見るや、テスが立ち上がり、両手の半月刀を抜いた。そして息を大きく吸い込むと、普段の調子から想像もつかぬほど大きく、そして鋭い声で叫んだ。
「ゼラ!」
 止める間もなく星獣を追って走り出す。平衡(へいこう)を失った木道は今にも倒れてしまいそうだった。声を聞きつけたゼラが、柵の向こうから身を乗り出してきた。
 テスのステップ。
 両手の半月刀の柄頭(つかがしら)をぶつけ合せ、ねじる。
 大きく振りかぶる。
 どうするつもりかと見守るリージェスの前で、テスは連結された半月刀をゼラへと投げ放った。
 ゼラが何か叫び、星獣が止まる。半月刀は回転しながら飛び、またテスも疾走した。ゼラが柵の向こうに顔を引っ込める。
 半月刀は柵に刺さり、動きを止めた。
 星獣に追いついたテスがその尾を掴む。
 木道を蹴り、柵の間から突き出された民兵の剣を頭を横に倒して避け、むしろその刀身を踏みつけながら、一気に柵へと上半身を乗り込ませた。
 左手が柵から半月刀を抜く。
 右手がゼラの腕を掴む。
 ゼラはテスの顔を殴って振り落とそうとした。テスはその動きを想定済みで、腕を掴んだまま柵を強く蹴る。
 傷の入った柵は砕け、テスに引き寄せられるまま、ゼラが木道に転がり落ちてきた。
 民兵たちが剣を手に、歩道で組み合うゼラとテスの前に飛び降りようとした。
 それを見て。
 リージェスは。
 歌った。
 領主を呼ぶ民兵たちの悲しげな叫びを乗せて、星獣は走り去っていく。そのきらめきが見えなくなると、リージェスの声が届かなるところで、またゴミが崩落した。テスとゼラはというと、既に立ち上がり、互いの剣を交えていた。上と下から、右と左から、自在に振るわれるテスの半月刀をゼラは巧みに捌いていた。一歩も引かぬのは、引いた瞬間踏み込まれ、深手を追うとわかっているから。
 強かった、二人とも。
 加勢しようにも足場がなく、ゼラの炎剣の波打つ刃をテスの半月刀が受け止めるまで、リージェスは見守るしかなかった。
 二人は武器を挟んで睨み合う。
「あの日」
 体格で勝るゼラが、腕力任せに剣ごと顔をテスに近付けた。
「お前と一緒にいた赤毛の男はどこにいる」
 テスは睨み返しながら「何のことだ?」
「しらばっくれるな! 創世潰しのミスリルとかいうのはお前の仲間だろう!」
「……なんだって?」
 星獣が戻ってくる。木道は傾き続け、ゼラとテスは爪先の向きを変えることでかろうじてバランスを取っているありさま。リージェスは右側のゴミの斜面を見下ろし、左側の斜面を見上げ。
 退路を見つけた。
「領主様ぁ!」
 その呼び声をきっかけに、リージェスは後ろからテスの二の腕を掴んだ。
「こっちだ!」
 ついぞ、足場が消えた。
 民兵たちの悲鳴もろとも星獣が斜面に横倒しになる。木道は立っていられないほど傾き、ゼラは下の傾斜に倒れ、リージェスは跳ねた。
 ゴミの中から突き出た配管へ。
 配管を掴む。テスは半月刀を収め、掴まれていないほうの手で支えになるものを見つけた。
 木道が剥がれ落ちていく。鞍から投げ出された民兵たち、そしてゼラが、虚無への転落を免れて下のほうから二人を見上げていた。
 テスはいつものぼんやりした口調に戻って言った。
「簡単に死ぬ奴じゃないな」
 とにもかくにも這い上がるのだ。二人は手掛かり足掛かりを探す。それは敵三人も同じこと。
「創世潰しってなんだ」
 不衛生な塵を吸い込むのも構わずリージェスは問いかけた。口の中は砂利を含んでいるかのように不快だ。
「お前、俺に話してないことがあるな」
 だがテスを見ている余裕はない。見なくても返事はあった。
「生き残らないと話せない」
 それはその通り。
 リージェスは舌打ちしながら、次の手掛かりとなる瓦礫に右腕を伸ばした。

 ※

 リレーネは驚きで息が乱れていくのを感じていた。剣士がリレーネの名を呼んだからだ。誰だか承知の上でここに連れてきたのだ。台座に横たわる女が、立ち上がろうと身動きした。ドレスが乱れ、スリットの入った裾から褐色の太腿が付け根まで露わになった。なめらかな肌の太腿には、大型の軍用ナイフが仕込まれていた。
 扉が閉まる。部屋にはもう一人いた。黒髪の、だがこちらは短髪の女性だった。腰に長いレイピアを吊っている。美しい女だった。目が合うと、嫣然(えんぜん)と微笑みかけてきた。
 気配を感じて顔を前に戻すと、銀髪の女は既にリレーネの目の前に立っていた。
「実に」目に喜びの光を浮かべ、「何遍(なんべん)見てもかわいらしいのう。うむ、この娘で間違いない!」
 興奮で声が高くなっていく。
「でかしたぞ、ヨリス少佐! 嬢をどこで見つけたのじゃ?」
「朝方旧ミナルタ市街地に帰り着いたのですが、橋の崩落した箇所で立ち往生しているのを見かけましたゆえ、連れて参りました」
「ほう」
 銀髪女が首をかしげる。
「専属護衛はついておらなんだか?」
「もし発言が許されるのでしたら」
 その問いにはリレーネが答えようとした。誰も遮らなかった。
「私の専属護衛であるアークライト少尉はゴミ山に取り残され、そのゴミ山は意図的に崩落させられたという事実を申し上げますわ」
 女の目がヨリスへと移る。ヨリスは答えた。
「聞き従う見込みがございませんでしたゆえ」
(あい)も変わらず強引じゃの。まあよいわ」
「よくありません」
 足に震えが来るのを堪えながらリレーネは抗議した。
「あの方は北方領からこの南西領本土の南の端まで私を導いてくださいました。私をここに招いたあなたは、どのような立場の方ですの?」
「よくぞそれを聞いた」
 女は右手をリレーネの左肩に乗せ、ぎゅっと力を込めた。
「私はシルヴェリア・ダーシェルナキ。先の総督シグレイの長子にして現総督アランドの姉。嬢や、そなたの姿は既に見て知っておる」
 シルヴェリアは笑うが、目つきはどこか残忍そうで容赦なく見えた。
「そなたが『月』を都に持ち込んだ際に、総督府で見かけた」
 次に問われることを予想して、リレーネは心身ともに身構えた。だがシルヴェリアは、すぐにはその質問を発さなかった。
 リレーネの肩から手を離し、台座に戻る。
「フェンや、嬢に椅子を用意せよ」
「ええ」
 フェンと呼ばれた女性は、やけに砕けた口調で答え、部屋から出て行った。その動きを目で追い、姿が見えなくなってからリレーネは尋ねた。
「あの方は?」
「フェン・アルドロス少佐。愛人じゃ」
 唖然とするリレーネの前でまたもしどけなく横たわり、乱れた長髪をかき上げる。
(ちこ)う寄れ。話をしたい。(かしこ)まらなくとも良い。ただの世間話じゃ」
「世間話のはずがありませんわ」
「世間では、このような場合は天気の話からするものだそうじゃな。ふむ。ぱっとしない天気じゃのう」
 シルヴェリアの背景となる大きな窓の向こうでは、雲が光と影を和らげ、雷鳴が轟いていた。
 あれは雷鳴ではないと、リレーネは突然気がついた。
 ゴミ山が崩れ続けているのだ。
「海に出たいと言うたのは私じゃった」
 リレーネは、目の焦点を、窓の手前のシルヴェリアに結ぶ。
「なにせ天気のよい日じゃった。父は地球人がいるという別大陸まで漕ぎ出してみぬかと誘ってきてのう」
「何故、そのようなことを」
「暇だったのでな」
 改めてシルヴェリアを観察する。活動的で有能そうな雰囲気から、この人が暇なときなどないのではと思われた。
「暇をするとどうしても、うんざりするものが目に入る。言語生命体の屈従の歴史を思い起こさせ、未来への展望を閉ざす退歩史観の産物が、この大陸には多すぎるわ」
 フェンが布張りの椅子を持ってきた。フェンの両手が後ろから肩に乗せられたとき、捕まってしまったのだ、と、リレーネは痛感した。一方のシルヴェリアは悠然とあくびをした。半殺しのネズミに興味を失った猫のように。
「嬢や、問題なのは」
 だが、猫はネズミを逃さない。
「未来が今よりよくなる見込みがないのなら、つらい過去はいつまで経っても過去にならぬ。問題なのは、地球人につけられた有形無形の傷がいつまでもあるということ。大地にも、個人のアイデンティティの中にもな。退化が推し進められてきた言語生命体の文明力ではその傷は塞げぬ」
「この大陸に未来はないとのお考えですか」
「あまりにも傷つく出来事があったら、その場所からは出て行かねばならぬということじゃ。自分のために。そう思わぬか?」
 シルヴェリアは罠に嵌めようとしている。
 私たちが大陸から出ていくことはできない、海の妖魔(セイレーン)がいるから。
 と、リレーネが言うのを待っている。
 そしたらシルヴェリアはこう尋ねるのだ。『月』はセイレーンを避けて漂着し得たではないかと。
 けれど、話がここまで進んだ以上その流れはもう不可避。リレーネが青ざめて口をつぐもうと関わりなく、恐れていた質問は放たれた。
「して、お嬢。『月』をどこに隠したのじゃ?」



 
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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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