無垢なる人の毒殺

文字数 4,734文字

 1.

 寒波が去り、ぽかぽかと暖かい日のあと再びコブレンが吹雪に見舞われたとき、今度の寒波は狂気の熱を帯びていた。
 激戦区となった第二城壁の外側からは様々な物品が移送されつつあったが、ある倉庫の管理人は、昇汞(しょうこう)の原料となる辰砂(しんしゃ)や種々の鉛が姿を消していることに気がついた。市には毒殺が横行した。辻斬りも同じくらい横行した。これまでコブレン自警団に頭を押さえつけられていた暗殺組織の見習いたちが、師の命じるままに不用意に出歩く人を斬り、日輪連盟の兵士を斬り、数日後には兵士や下士官ばかりが斬られるようになった。
 建物は薄い氷に覆われた。市民は可能な限り例年通りの雪かき組織を結成しようとした。新雪がかき集められると、下から凍った路面が現れて、通行はより危険な状態となり、その氷にも新雪の白い粒がたちまち貼りついた。
 日輪連盟軍の荷馬車は通行困難となり、しばしば立ち往生する彼らに酒を売る商売が(おこ)った。その酒を飲んだ兵士は次々と倒れていった。怒り狂った将軍は、辰砂泥棒の逮捕につながる有力な情報を提供した者には十五クレスニーを提供すると声明を出した。約束された十五枚の金貨は将軍の私財であるのだが、その晩彼の寝室の前の廊下に撒き散らされた、きらめきながらころころ転がる小さく愛らしい水銀の粒が声明への応答となった。
 青ざめた将軍は、直ちに司令部の警備を増強した。代わりに手薄となった第二城壁近くの部隊の指揮所では、連隊長の大佐がまだ日のあるうちに喉を裂かれた。
 異端信仰の集会を開いた七、八人の無害な市民がリジェク神官団の小隊によって斬り伏せられた。武器を準備していたから、という口実だったが、殺された市民たちが持ち寄っていたのはなけなしのパンと衣料だった。
 信仰者たちは異端と正統、教派の壁を超えて結束した。前からコブレンにいる、勇気のある三十前後の若い神官は、以前礼拝を荒らされたときに殴られて頬骨を折られたのだが、それ以前と変わらぬ滑舌と熱意で、いかなる礼拝も神聖で犯しがたい権利を持っていることを説いた。リジェク神官団の宿舎の前には、声高に祈りながら膝行(しっこう)する五十人ばかりの集団が現れた。彼らは口では遠くリジェクから訪れた神官を讃えているのだが、目的は明らかにリジェク神官団の業務の妨害であった。
 異端の信仰者たちはというと、自分たちは迫害されているという思い込みから一層堂堂と祈り、集会し、教条を声高に唱え、行うようになった。
 死者の霊の慟哭(どうこく)が風に舞い上がる。雪降りしきるなか、黒いマントの娘が四つん這いになって死体に覆いかぶさり、狼さながら首を仰け反らせ、死者の嘆きを()いた。
 その余韻が高く尖ったコブレン市街の屋根屋根を飛び越えていくと、娘は膝立ちになり、しばし呆然とする()を置いてから立ち上がった。
 そして、膝の痛みを堪えながら、彼女が暮らす粗末な小屋へと帰っていった。

 ※

 一時間歩いて、娘は町外れの小屋に帰り着いた。外れかけた戸板を斜めに開き、隙間から体を滑り込ませて黒く厚い布を引く。
 壁の破れ目を雪雲の光が灰色に塗っていた。隙間風が吹く屋内では、小屋の真ん中の(かまど)に残る熾火(おきび)が照明となっていた。床を掘って作った竃で、周囲を石と漆喰で固め、その上に灰を敷き、梁から長い(かぎ)で大釜を吊り下げていた。
 暖をとりながら眠るため、竃の前には娘の寝具が敷かれたままになっている。靴を履いた足で寝具をどけ、竃の横に積んだ薪を一本、また一本、火に投げ込んだ。熾火は消えそうなほど小さくなり、部屋は薄闇に閉ざされ、しばらくすると薪から水気のはぜるパチパチという音とともに明るさが増してきた。
 娘は大釜の蓋を開け、覗き込んだ。
 木の蓋の下では大小いくつもの鉱石が煮られていた。
 ふっ、と息をつき、火の前にしゃがんで手をかざす。その温かさに目を閉じたとき。
 男の声がした。
()素は素晴らしい毒物だ」
 娘が目を見開いたときには、男は戸口の布を腕で押しのけて、既に小屋に入り込んでいた。
「失礼。知らずにやっているのならあまりに危険だと思ってね」
 若く、痩せている。外の明かりが後ろから差し、青年の髪を黒紫色に照らし出した。
「誰が君に教えたんだい?」
 青年が布から腕を離す直前、彼が薄笑いを浮かべているのが娘には見えた。
「煮出して飲むと体にいいって? それともまさか」
 娘は立ち上がろうとした。体が強張(こわば)ってうまくいかず、バランスを崩し、尻と左肘を床に打ちつけた。
「それともまさか」青年は繰り返した。「知っててやっているのかな?」
 火影(ほかげ)が青年の姿を揺らめかせた。夢見るように彼は歩み始めた。
「誰に飲ませるの?」
 青年が一歩踏み出すのに合わせ、娘は両足と両肘を使って後ずさる。青年が竃の前に来たときには、娘は小屋の奥の壁まで追い詰められていた。そこで右肘をバネに体を(ひるがえ)し、手をついて立ち上がると、竃を挟んで青年を避け、小屋の入り口へと駆け出した。
 青年は追わなかった。火に照らされ、ある流行り歌の一節を口ずさむとすぐに、娘は小屋に戻ってきた。
 二人になっていた。
 銀色の髪をマントのフードで隠した二人目の少女が、最初の少女を小屋の中に押し込んだ。
「ジェスティ、ご苦労さん」
 ジェスティは小屋の主に組みつき、そのまま仰向けに倒した。娘は悲鳴をあげようとしなかった。視線が溺れる人のようにアスターに縋りついた。
「僕は質問をしているんだ」
 優しげに言いながら上衣のポケットから小さな万力を出す。指つぶし器だ。そっと屈み込むアスターを見ながら、少女は大きく開けた口で荒い息を繰り返した。白い息が、吐き出されては消えていく。過呼吸を起こしかけていた。
「答えない?」
 馬乗りになったジェスティに固められながら、娘は右手でジェスティの手首を掴んでいた。アスターは娘の手をジェスティの手首から剥がした。
「問題は、君が見た感じ十四、五歳のいたいけな女の子なことじゃないんだ」
 少女の肌は雪のように白かった。
「……ふぅん。どうやら君は日常的に砒素と接しているようだね」
 その白く細くあかぎれのある小指に、冷たく角張った指つぶし器が嵌められる。
「いいかい? それこそが問題なんだよ。君が誰に砒素を使おうとしているのか。または誰に使っているのか」
「待って」
 蚊の鳴くような声で、初めて娘は口をきいた。
「その前にやることがあるはずよ」
 ほとんど万力を締め始めていたアスターは、にっこり笑って指つぶし器を手早く外した。
「そうだね。まずは爪を剥がさないと」
 今度は小型の(きり)を出す。それを見て、娘は観念した。
「北ルナリア副市長!」
 恐怖に息を喘がせながら白状した。
 憎悪を込めて。
「ジェレナク・トアン!」
 アスターも、また無言で娘を取り押さえるジェスティも、これには目を丸くした。二人は若く未熟な毒殺者の目に、自白した者に特有の絶望と微かな清々(すがすが)しさを見た。
 小屋には火の()ぜる音と、娘の荒い息遣いが響くのみとなった。
「……もしかしたら君は、どうしてその男を殺したいのかを語りたくて仕方がないかもしれないけど」
 アスターは小さな錐を娘に見せつけてから、それをベルトに挟んだ。
「憎まれて当たり前の人がどうして憎まれてるのか聞いても仕方がないからね。じゃ、次の質問にいくよ。
 憎まれて当たり前の人の群れの中から、ジェレナク・トアン副市長を選んだのはどうして?」
「手近だから」
「どうやって彼に接近するの?」
「私、毒見が仕事なの」
「今も?」
 娘は頷いた。
「日に三度、私は北ルナリア市の部隊の指揮所に行きます。毒見をした後で、私が毒を入れます」
「砒素を選んだのは素晴らしい判断だ」
 満足げにアスターは言った。
「慢性砒素中毒は他の病気に偽装しやすく、無味無臭、飲食物に混ぜたらほとんど気付かれない。君のご両親は何の仕事をしていたの?」
「薬屋です」
「それは婉曲(えんきょく)な表現だね?」
 困り顔の娘に、アスターは首を振った。
「ううん、大事な質問は、今からするほうね。君はトアン副市長がいる指揮所で変わった星獣を目にする機会があるんじゃないかい?」
「はい」
「その数がどれくらいかわかるかい?」
「わかりません」
 娘はアスターの目に、鼓動に合わせて開いたり閉じたりする剣呑(けんのん)な闇を見つけた。慌てて言い訳をまくし立てる。
「数が毎日違うんです。同じ星獣を見かけたり、見かけなかったりして、毎日なんらかの星獣がいるのは確かなんですが――」
 娘は声を震わせながら続けたが、そこまで聞けば十分だった。つまりコブレンにいる星獣兵器は周期的に入れ替わっているということだ。
「君は星獣が指揮所から出ていくところを見たことがあるかな?」
 薬屋の娘はアスターのために的確な回答をした。
「星獣は出ていくとき、必ず岩塩道路を東に通っていきます。そこから出て行った星獣は指揮所に戻ってきません」
 ジェスティはアスターに、アスターはジェスティに、意味ありげな目を向けた。目配せしたとき二人は同じことを考えていた。
 都ではミナルタからの塩の供給が絶え、コブレンの岩塩が需要を増している。通常十一月上旬に閉鎖される岩塩道路が今も使われているのはそのためだ。
 つまり星獣兵器が岩塩道路で輸送されるなら、行き着く先は。
 都だ。

 ※

 第二公女エーリカは自己顕示欲の強さと豪奢な暮らしぶりで知られているが、都への帰還はひっそりと行われた。歩兵に護られて大通りをゆく馬車に、疲れて殺気立つ人々が顔を向けた。彼らは無言だが、目は雄弁だった。
 建物の間から飛び出した主婦が、馬車に向かって突っ込んできた。槍を持つ歩兵が大声で制しようとしたが、結局体当たりで動きを封じなければならなかった。歩兵二人に舗道に押さえつけられながら、主婦は馬車に声を張り上げた。(おおむ)ねこのような内容だ。
「お願いです! どうか戦争をやめてください! 武器の放棄を! 平和を地球人(創造主)に祈り求めてください! 争いなど野蛮です! 殿下! 殿下!」
 総督府へ向かう馬車は、速度を緩めず主婦の前を通り過ぎていった。
 馬車の窓際で、エーリカは深いため息をついた。ララセルを挟んで反対の窓際に、五十がらみの大柄な男がいた。
「あれが『ゼフェルの後継』ですわ。例の」
 男は凍りついた目を、護衛武官の向こう側にいるエーリカに注いだ。肩まで伸びた金髪や無精髭と同じく、青い目も加齢で色褪せていた。
「ゼフェルの後継軍は、実際に都でどれほどの武装を進めているのですか?」
 エーリカが答えようとしたとき、窓の向こうで歌が湧き上がった。
 降りしきる雪の向こう、五階建てで三角屋根の邸宅が並ぶ街路から、それは聞こえてきた。
「……星獣奏ですわね」
 エーリカは窓枠に手をかける。ララセルが止めようとしたが、エーリカは構わず窓の下部を内側に引いて細く開け、つっかえ棒をした。
 自然発生したようなその歌は、知り得ぬことを知ろうとした男が一夜にして妻子を失う悲劇を歌うものだった。内容からして長い歌の断章であろうと推測されるのだが、それ以上の詳細のわからぬ、不気味で後味の悪い歌だった。

『喜ビ歌エ 新シイ 星獣ガ今宵生マレタ
 尽キヌ生命 無キ生命
 造物主トハ何者ゾ』

「ゼフェルの後継軍について語れることはありませんわ」
 エーリカは窓を閉めて言った。
「それよりも、私はあなたに新型星獣の屠りかたをご教示頂きたいのです。あなたの部下たちが命と引き換えに試された、その戦い方を」
 男の目に火花が散る。
「いいえ、改めて申し上げるようなことではございませんでしたわね」
 声にかき消されぬように、エーリカはしっかりと呼びかけた。
「失礼いたしました。コブレン自警団団長、グザリア・フーケ殿」


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


----------------------------------------------


◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


----------------------------------------------


◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


----------------------------------------------


◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み