逃亡者は歌う

文字数 4,589文字

 3.

「おい」後ろの民兵の声が尖る。「知り合いか?」
 リージェスは迷ったが、意を汲み首を横に振った。
「知り合いだが仲間じゃない」
「どうだか」
 一呼吸置いて、「わからないな」離れた場所に立つテスへと声を上げた。間合いは十歩もある。本当に斬りかかってくるつもりがテスにあるかはわからないが。
「コブレンの殺し屋が何をしに来た。わざわざあれから俺たちを探し回ってたわけじゃないだろう」
「置き土産(みやげ)のことで話がある」
 心拍が上がり、指先に力が入った。平静を装って、つっけんどんに言い返す。
「返してくれるのか?」
「おい、何の話だ」
 左側から声をかけられる。すると右側から別の民兵が出てきた。手には連弩を携えていた。リージェスは右手で彼を制しようとした。
「やめろ、リレーネに当たる」
 テスの足許に転がる民兵が、朦朧としながら呻き声をあげた。
 右手を強く払われた。痛みが走る。
「お待ちになって」リレーネが声をあげた。「この方は私たちから何かを奪いにきたのではありません。大切な話のようですの。まずはお聞きになってはいかが?」
「話はまずお前らから聞く。セレテス子爵が帰ってくる。お怪我をしたくなかったら手を上げな、坊や」
「セレテス子爵は俺の顔を覚えているかもしれないな」
 テスが杖の民兵に目を向ける。
「お前はどうだ」半月刀を持つ左手は揺るがない。「俺はお前を覚えている。ミスリルがお前の足を折ったから」
 何かを思い出したらしい。杖の民兵は鋭く息を吸い込んだ。その民兵とリージェスの真後ろに立つ男を残し、他の民兵たちが、左右からじりじりと前に出た。
「お願い事か? 坊や」
 連弩を向けられても、テスは同様していないようだ。リージェスはいつでもリレーネのもとへ飛び出せるよう身構えていた。
「そうではないし、そうでもある」
「言ってみろ」
 テスが口をつぐんだ。これ以上間合いが詰まると双方にとって危険だからだ。民兵たちも足を止めた。互いの覚悟を量る沈黙を、少女の歌声が緩めた。
 耳慣れた旋律。星獣を呼び寄せる歌が、リレーネの口から放たれていた。意図の読めぬ歌は、民兵たちをたじろがせ、ついで注目を彼女に集めさせた。
「リレーネ、やめろ」
 危機を感じ、リージェスは前のめりに身を乗り出した。後ろから強く腕を掴まれた。
 歌は止まない。
「リレーネ! こんなところで歌ったって星獣は来ない――」
 何か、音がした。
 梯子が鳴ったのだ。腕を掴まれたまま、リージェスは上半身の向きを変えた。
 僅かに見える梯子の頭が振動している。
 真っ黒い手が出てきて、石床の縁を掴んだ。手が、もう一つ。次いで二本の腕が、何者かの上半身を持ち上げた。
 リレーネの歌声から張りが消え、声も小さくなった。だが歌は続いた。歌に操られるように、肌のどす黒く変色した半裸の男が、痩せこけた体をテラスに現した。
 さっきの病人だ。
 ついぞ歌がやんだ。
「おい、お前、どうした?」
 とりあえず、というように、民兵の一人が声をかけた。
「戻ってろ。な?」
 男は爪先から向きを変え、歌い手、リレーネを見つけ出した。何かぶつぶつ呟いている。
「おい」
 一歩踏み出した民兵は、たじろぐように動きを止めた。リージェスの耳にも病人の言葉が聞き取れるようになった。
 こう呟いていた。
「会いたい……会いたい……」
 風が強く吹いた。瞬きする間もなかった。不自然な強風で前髪が持ち上がるのを感じた直後には、その黒色は視界から消えていた。リレーネが短く叫ぶ。男の黒い肌の向こうに、テスの暗緑色の髪が見えた。半月刀が翻り、誰もが凍りつく中で、テスが男の喉を深く裂いた。
 血は上がらなかった。テスは右手にも半月刀を握り、腰をよじり、大きく円を描いてとどめの一撃を振るう。首の太い血管や骨を断ち切る感触はなかった。だが、まるで粘土でも斬ったかのように、男の首がぽとりと落ちた。
 首は、石床まで転がらなかった。切断面から伸びる真っ黒い管によって繋ぎとめられ、頭頂を下にして、左膝の辺りで揺れていた。
 口が開く。
「会い、たい」
 リレーネは全身に力を入れて、自分の拳を噛んでいた。テスは後ずさりながら尋ねる。
「誰に?」
 途端に、最後まで色をとどめていた白目と虹彩が漆黒に塗り変わった。
 リージェスは黒い背中を見ながら、事態を常識的に捉えようと努力していた。首に縄でもついているのか? だから落ちないのか?
「どうして斬った?」
 咎めるような民兵の問いに対するテスの答えは明瞭。
「さっき俺が確認したときこの人は死んでいた」
「死んじゃいなかったさ」
「鼓動がなかった」
 森だけがざわめき、木漏れ日だけが陽気だった。冷静さを保とうという各人の努力が、彼らが共通して吸う空気を膨れ上がらせていた。窒息しそうだとテスは思った。民兵の次の一言が、空気を破裂させた。
「鼓動がなくても、生きていたんだ」
「じゃあ」とリレーネ。「今もまだ生きていらっしゃるのかしら?」
 それには、揺れてぶら下がる首が答えた。歌い始めたのだ。
 星獣の暴走の歌だった。甲高い、だが男の声で、生きている者が歌うのとは違う節回し、違う音程、違う周波数で、だが確かに同じ旋律で歌った。
 テスは屈み、先ほど上着で縛り上げた民兵の拘束を、半月刀で()った。民兵は転がり、身を捩り、テスには目もくれず、尻と四肢で後ずさって死せる男から離れた。
 テスもまた相対しながら後退する。最も気丈に振る舞ったのは、意外にもリレーネだった。
「お静かになさって」
 口にしながら立ち上がる。
「おやめなさい!」
 リージェスは、彼女が高貴な血筋の子女であることを思い出した。ついで自分の使命に気がついた。民兵たちがたじろいでいる間に、自ら異形(いぎょう)に駆け寄り、すり抜けた。病者の歌が中断された。
「会いたい――」
 リレーネの手を取る。
 叫び。
「――会いたい!」
「行こう」
 梯子へ駆け戻ろうとした。眼前に、民兵が立ちはだかる。
 木漏れ日が翳り、頭上を気配が覆った。命なき(けだもの)、リージェスたちをここへ運んだ木馬のような驢馬のような星獣が、石床を揺るがしながら着地した。
 岩肌を駆け上ってきたのだ。
 星獣は異形の男の胸を蹴った。リージェスも、リレーネも、二人の逃走を阻んだ民兵も、男を見た。石床に倒れた男の首が、ついぞ胴体を離れ転がった。その首は自ら転がり、呻く。
「会いたい――会いたい――」
 民兵たちは炎剣を抜き、または首に連弩を向けた。混乱の叫びをあげていたが、彼ら自身、自らの叫びに気付いていないように見えた。リージェスもまた、彼らと同じ状況に陥ったことがある。初めて人を殺したとき――。

『愛シ君 泡沫(しぶき)トナリテ
 緑ノ岸ニ押シ寄セリ』

 リレーネの歌が、茫然自失の状況からリージェスを引き戻した。

『帰リ来シ 君ノ姿ハ 波ノ花
 死セル人ラノ生命ヨ』

 浜昼顔の恋歌(れんか)
 何故、と考える。
 あの男は、会いたい、と言った。
 誰に。妻か、恋人かとリレーネは考えたのか。テスの声が聞こえた。
「逃げろ!」
 自分を呼んだ歌が消え、立ち尽くしている星獣の脚の向こうに、黒い男の首が見えた。首から伸びた管のような物の正体を、リージェスは突然理解した。舌だ。舌から繋がる内蔵だ。それがシャツを着た民兵のむき出しの腕に巻きついている。その肌がたちまち黒く変じるのを見、恐慌に陥って、民兵は叫んでいた。他の民兵たちが、剣で首を突いて仲間を救けようとしていた。
 緑色の光、テスの髪の光が視界を横切った。彼は出入り口を塞ぐ民兵に真横から体当たりし、道を開いた。
「行こう」
 見ていたくなかった。リレーネの手を引いて導こうとする。だが、梯子の手前でリレーネは自ら手をほどき、民兵を組み敷いているテスへと駆け寄った。そして彼の右の二の腕に触れ、真剣な様子で告げた。
「あなたもいらして!」
 どうするかと思っていると、テスは頷き、意気阻喪した民兵を捨て置いて走り出すと、梯子を使わず段差を飛び下りた。リージェスは少し迷ってから、リレーネを先に下りさせた。ついで自分が途中まで梯子を伝い下り、残りを飛び下りた。
 テラスの騒動は続いていた。前を走るテスは、この天然要塞の二階部分の外廊下へと二人を先導し、内部の廊下から外廊下へ、闇から光へ出る直前、足を止めた。
 振り向く。
「星獣を呼んでくれ」
 その声は、穏やかで、話し方はゆっくりだった。深夜のコブレンで出会ったときのように。それからまた前を向き、外廊下へ飛び出した。
 リージェスもまた、遅れがちなリレーネの手を引いて木漏れ日の海に飛び込んだ。光を浴び、リレーネが歌う。柱と柱の間を星獣が飛び下りていくのを見た。下から着地の物音。上からはようやく民兵たちが下りてくる。その足音が背後の廊下に降り立ったとき、まずテスが、廊下から星獣の背中の柵の内側へと飛んだ。
 すっくと立った星獣の柵と外廊下の間の高低差は、ゆうに大人二人分ある。張り出した岩がないのを(さいわい)とばかりに、リージェスは何も言わずにリレーネを下へ投げ飛ばした。結果を確かめずに自分が飛んだ。背後に荒々しい足音を聞いた。受け身を取り、顔を上げると、リレーネはちゃんと柵の中にいた。テスがその体の下敷きになっていた。受け止めてくれたようだ。
 リレーネもまた顔を上げると、リージェスの無事を確かめることもせず紅潮した顔で叫んだ。
「お掴まりになって!」
 歌、そして暴走。
 森を飛び、土の上を駆ける星獣の背から、真紅の髪の男を筆頭とする一団を見た気がした。それがセレテス子爵か確かめる余裕もなく、リージェスは伏せたまま目を閉じた。土埃が目に入るのだ。
 時の感覚は失われた。それでもリレーネの喉が涸れ、暴走が終わる時がきた。あとは明るい森を、星獣が穏やかに行くのみとなった。
 軋む柵の中で、リージェスとリレーネ、そしてテスの三人は、離れた隅で身を起こし、座り込んだ。三人ともが事態の展開に呆然としていた。互いに聞きたいことが山ほどあるはずなのに、今は何も知りたくない気分だった。
 心地よく揺られながら、リージェスはなんとなく口にした。
「さっきゼラ・セレテス子爵がいたな」
 テスが相槌を打つ。
「ああ」
「セレテス子爵の顔を知っているのか」
「会ったことがある。お前たちがコブレンに置いていった『月』のことで」
 コブレンを出て以降、砕けた『月』が再生しなくなったことをリージェスは思い出した。リレーネは疲れて黙りこくっている。
 リージェスはテスを睨んだ。
「『月』はどうした」
 テスはどこも見ていないようなぼんやりした目で、「それはまた失われた」
「どういう意味だ?」
 答えはなかった。
 どこかで(トビ)が鳴いた。テスが顎を天に上げた。
「歌えるか」とリレーネに尋ねた。「あの鳶がいるほうに行ってほしい」
「どうしてですの?」
「安全な場所を教えてくれているんだ」
 真昼の森の静けさに、あれは俺の鳥だ、と、テスは呟いた。


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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