大量死を詠む語歌
文字数 1,640文字
大量死を
我らを眠らせたまえ。
神それ自身が地獄で焼かれると誰に想像できただろう。または、被造物のゆえに苦しむことがないならば、果たしてそれは神なのか。
雪の降る国。
「寒さに身を寄せ合い、飢え、ひたすらに夜を耐え忍ぶ小さな生き物たちのなんと憐れなことだろう。私は言語生命体たちのために、太陽を空に繋ぎとめよう。あの偉大な光球を蒼天に刺し
神は天に昇った。聖なる槍を携えて、天球儀の網目をすり抜けたきり、二度と戻ってこなかった。太陽は地獄だったのだ。
嘆きの夜。神は帰らず、代わりに火が谷にもたらされた。それは都が今の位置になく、神である地球人と言語生命体が共に暮らしていた時代。火は触れることができず、熱はなく、煙もなく、青い光を伴って、都の言語生命体たちを焼いていった。皮膚病。全身に火傷のような痕が広がり、髪が抜け、血を吐き、痩せ細りながら人は死んでいった。
恐れおののく人々のために、一人の娘が
託宣は地にある神官にくだり、谷の都は埋められた。そしてそこよりずっと南の別の谷に、今の都が作られた。
亡き母の語りしところによれば、供儀の娘は名を、エルーシヤといったそうだ。
※
そんな伝説をでっち上げるほど、言語生命体は地球人と同じものを欲しがった。我が身を犠牲にするほど被造物を愛する神。代わりに死んでくれる神。
実際には伝説の中の最も悲惨な部分だけが真実だ。青い光が放たれて、
宇宙空間に存在する地球の艦隊と交信するための、南西領における施設である『南西領言語の塔』。その塔を中心に据えた日の差さぬ都は、有事には谷間を
都は滅び、遷都がなされた。新しき都は、古き都と同じく谷間の都。ただし都市の中枢部は温かな日の当たる山の
その遺構は一般に古農場と呼ばれる。現代においても地球の技術で管理される、地下四層にわたる広大な農場。そこで生産された作物は海底の輸送ラインを通ってアースフィアの反対側、地球人たちが暮らす領域に送り込まれるのだが、それらの作物が言語生命体によって掠め取られることはしばしばあった。
谷底から風が吹いて、天然のスロープを下るリアンセ・ホーリーバーチ中尉のピンクゴールドの髪を持ち上げた。編んでこればよかったわ、と、彼女は思った。カジュアルなドレスと背中に流した長髪は、今は彼女を上流階級の娘に見せていた。腰にはフルーレと呼ばれる刺突専用の細い剣を下げている。堂堂と武器を帯びて外出するのは上流階級の特権だ。いる場所だけが場違いだった。リアンセは谷を見下ろす。二つの黄色い岩肌は、間隔を
もとより日の差さぬところだが、今日のように陰気に曇った日は、七月といえど寒かった。
さらなる風。
土埃が舞う。
右手で髪を、左手でドレスを抑えて目を細める若き女性士官は、所在ない気持ちで昨日の上官とのやりとりを回想した。