甘くとも苦くとも

文字数 4,449文字

 1.

 全く現実にはあり得ない事柄を己の手でなしたとき、今後何が起きても二度と驚くまいとアズは決意した。さもなくば、あらゆる常識を覆し得るこの世の全てに驚き続けることになる。
 鈴が打ち鳴らされ、象牙の歌が始まった。
 透き通る星獣の声が高音を長く伸ばす。五秒。六秒。
 二体めの声が重なって、和音となる。
 三体めは濁声(だみごえ)
 その和声が、ある瞬間、示し合わせたように止やむ。
 一斉に靴音。
 そして日輪連盟軍の十もの槍旗(そうき)が広場で掲げられた。
「あの夜を思い出すよ」
 コブレン西部の岩塩道路前の城壁、血で汚れた門に近い側塔の小部屋から道路を見下ろしながら、トビィが口を開いた。二人きりの小部屋は外と同じくらい冷えており、日光が入らず、瞰射(かんしゃ)用の小窓には雪が積もっていた。
「どの夜だ?」
「俺たちが夜警に出かけて、アエリエが最初の歌い手を務めた。でも、その頃ミスリルとテスは『月』を手に入れようといしていたんだ」
「手に入れるつもりじゃなかった」
「でもそうなったよね」
 すぐに霧散する白い息を吐きながら、アズは顔を小窓に向けた。
「結果が全て、か」
 あの夜を最後に日常は失われた。
 今にして思えば、常識という観念が意味をなしていたことは、言い換えれば普通が普通であったことは、なんと素晴らしいことだったのだろう。今、普通でないことに、コブレン市街はこの昼ひなかから怯えたように静まりかえっていた。普通でないことに、太陽が急速に西に沈んで再び西から舞い戻ってきて以来、今が本当に昼なのかどうか知る(すべ)がなかった。普通でないことに、コブレンの岩塩道路を星獣兵器が闊歩していた。
 普通でないことに、人はそれに愛着を抱いていた。
「俺のちっちゃいチビ〜!」
 星獣を護送する行軍。
 呼びかける兵士の顔の横には小型の星獣が羽ばたいていた。透き通る鷲の翼と六本足の猫の体、首から上は雄鹿というそれは、抱きかかえられなくもない大きさで、敵への心理的威圧を存在意義に含む星獣兵器の中ではまだ受け入れやすい外見だった。
 同僚の兵士が槍を待ち直しながら尋ねた。
「そのちっちゃいチビって呼び方なんとかなんねぇの?」
「いいじゃないか、ちっちゃいチビなんだから。かわいいぞ。ほぅら、寄ってきた」
 体温のない歌う毛皮に頬ずりされ、兵士はけらけら笑う。
「言っとくけどな」
 同僚は、列の前方にいる上官を気にしながら言った。
「それはお前のペットじゃないんだぞ。お前のものじゃないってだけじゃない。それには心がないんだ。そもそも命がない」
「んなわけあるかい。俺にはよぉく懐いてるぜ?」
「ただの反射だ。そいつはお前を好いてない。いいか? 星獣兵器が人間を好きになったら、それはもう兵器じゃないんだ」
 普通でないことに、一行の行く手では、側塔に詰めていた七人の兵士の死体が門前で山積みにされていた。普通でないことに、アズの隣には双子の兄トビィがいた。そのことは、もはや普通ではない――。
「なに?」
 一瞬の視線に勘付いたトビィが、木箱に腰掛けたまま問いかけた。その足許には弩があり、目線は小窓に注がれたまま。
 いいや、別に。
 というアズの気まずい答えよりも、トビィの優しい声のほうが早かった。
「ねえアズ。言っとくけど、アズはもう俺にしたこと謝っちゃ駄目だよ」
 アズは恥じらうように顔を伏せた。その様子に、トビィはいつもの微笑みを消して真顔になる。
「じゃあさ、アズ。もしあの日――コブレンの戦いのあの状況で――俺とアズの立場が逆だったら、俺はどうしてたと思う?」
「わからない」
 即答だった。何度も考えたからだ。だが少なくとも、トビィがアズの存在を長らえようとするならば、その理由は「失いたくないから」という甘いものではなかったはずだ。
「そうだね」
 お手上げだとばかりにトビィは両手を上げた。弟の心から罪悪感を拭うのは無理らしい。
「人の心はわからないね。兄弟の間柄でも」
 鈴打ち鳴らす象牙の歌が響いてくる。
 飴色に揺らめく泥土の歌が響いてくる。
 梢をわたる翼あるものの歌が響いてくる。
 徐々に迫りくる。
「さあ」トビィが弩を取った。「動くよ」

 ※

 ちっちゃいチビにじゃれついていた兵士は、いきなり前の兵士の肩当てに顔面を強打した。彼は背が低かったのである。
 遅れて号令が飛んだ。
「止まれ!」
 ちっちゃいチビの警護を担当する兵士の後ろにいた兵は、彼の頭に軽鎧の胸の部分をぶつけて止まった。どこかの家で夫婦喧嘩が行われていた。といっても、聞こえるのは女の声だけだったが。
「何寝ぼけたこと言ってんのよさ! 星獣祭は来るの、来るのよ!」
 星獣兵器は三体いた。緑色の菱形の頭部に、目のある触手を無数に生やした粘液の袋のようなもの。濁った魚の目をした黄色い肉塊が、尾鰭と胸鰭を振りながらコオロギの脚で歩いているようなもの。最後は他の二体より小型の、翼ある鹿頭の六本脚の猫だった。それぞれが歌い、歌声は調和していた。
 誰かがその造形を考えたのだ。想像力の中で遊ばせておけばいいものを、わざわざ現実世界に連れ出さなければ気が済まなかった邪悪な人間が。
 そいつはきっと、どうすれば地獄の悪魔を喜ばせてやれるかいつも考えているような奴だ、とアズは想像した。彼は行軍の最後尾にほど近い民家の陰で息を潜めていた。寒くて耳がちぎれそうだし、風が容赦ない。両手には既に半月刀が抜かれている。
 そいつは――アズは想像する――北ルナリアもしくはリジェクにいるであろうそいつは、北ルナリア副市長ジェレナク・トアンと同等かそれ以下、見方によってはそれ以上の人物だ。
 トアンは美しいものを破壊して喜ぶ。
 星獣兵器のデザイナーは、美しいものを冒涜して喜ぶ。
 星獣兵器を護送する兵士は十二名いた。半日かけて行軍し、岩塩道路の最初の中継地点で別の部隊に引き継ぐのだ。
 門前に積まれた死体の山を目にした彼らの指揮官が、十一名の部下を振り向いた。彼は指揮官の仕事をしようとした。何らかの命令を発そうとしたのだ。だが、側塔から最初の矢が放たれるほうが早かった。
 矢は指揮官の後頭部を撃ち抜いた。その(やじり)が鼻の穴から飛び出てきた。地獄の悪魔が喜びそうな喜劇のように。
 重歩兵の装甲をも射抜く威力をもつ、巻き上げ機つきの弩だ。指揮官はひとたまりもなくその場に突っ伏した。人が倒れる音と、星獣兵器の歌に混じって、鼻から突き出た鏃が舗道を削るカチリという音がした。
 指揮官を失った兵士たちが烏合の衆と化す直前、伍長の腕章をつけた男が、側塔の窓の一つを指差した。
「あそこだ!」
 ご名答。今度は伍長の額に二度目の矢が放たれて、鏃が後頭部から突き出た。
 列の前部にいた三人め、続いて四人めが剣を抜いて側塔に押し寄せ、中ほどの四人が混乱して星獣兵器に身を寄せた。
 最後尾の二人は逃げようとした。後で言い訳をするつもりだろう。『まさか! 反撃の前にひとまず身を隠したまでです』
 言い訳は永遠に無用だった。一人めの喉をアズの左手の半月刀が、二人めの喉を右手の半月刀が順に切り裂いたからである。
 道に躍り出たアズは、頭上で半月刀を交差させ、振り下ろした。血飛沫(ちしぶき)が直線を描いて飛び散る。
「コブレンの岩塩道路はこの先、認可を受けた運搬業者しか通行を許されていない」
 語りかけるアズに対して、やっと、兵士たちはめいめい剣を抜いた。星獣兵器の逆立った鱗に切り裂かれ、キルティングの袖を赤く濡らしている者もいた。
 アズは左手の半月刀を兵士たちに突きつけた。
「お前たちは何者だ」
 修辞疑問に本物の疑問が返ってきた。
「お前が何者だよ!」
「我が名はコブレン自警団がアザ――」
 質問した兵士の喉仏を見事貫通し、鏃が帷子(かたびら)を破って突き出てきた。
 翼ある星獣兵器の歌が唸るような低音に変じた。
 一人が喊声(かんせい)をあげる。
 戦いが始まった。
「――まだ名乗ってたのに」
 瞰射用の小窓から、トビィの歌声が聞こえてくる。星獣を宥める歌。それは深く心に沁みてくる。深く、素早く……。
 正面から斬りかかってきた兵士の剣を右によけ、ちょうど右側に回り込んできた兵の一撃を半月刀で受け流す。
 くるりと体を半回転させ、右にいる兵の背後を取る。
 その無防備な首筋を難なく掻き切ると、血を噴き出すその体を手近な敵に突き飛ばした。
 仲間の死体にぶつかりよろめく兵士の首の付け根に半月刀を振り下ろす。
 抜きざまに、左足を軸に半回転。
 右の半月刀で斬撃を受け止めながら、左の半月刀で残る一人を仕留めた。
 事が終わっても、トビィの歌は続いていた。
 そして。
「チビ!」
 血を流しながら、小柄な兵士が側塔の扉からよろめき出てくる。
「俺の――」
 星獣兵器たちは歌をやめ、翼を持つものも舗道に落ちていた。別の歌い手がやってくるまでこのままだろう。
「――うわぁ、ちっちゃいチビ!」
 堪らず星獣に駆け寄ろうとした兵士がそのまま倒れ込んだ。その後ろにはトビィ、歌い続けるトビィ、上機嫌のトビィがいた。
 彼の長柄武器には、片側に斧と槍、反対に三日月型をした月牙と呼ばれる刃物が取り付けられている。その月牙が最後の兵士の首を捉えていた。
 首の両側から、血が溢れてくる。
 死亡を確認するまでもない。
 歌うのをやめ、トビィは笑った。
「ごめんねぇ、

を棺桶に入れてあげられなくて」
 最後に死んだ兵士は、倒れてなおかわいがっていた星獣に手を伸ばしていた。
 あれは愛せるものなのか。
 アズは静止した三体の星獣兵器を一瞥する。
 無理だった。少なくともアズには愛せない。
 にも関わらず、あれは言語生命体による純然たる発明品だった。ああいうものを創ったのは、言語生命体(じぶんたち)が始めたこと。
「甘くとも苦くとも――」
 聖典にある一節を呟こうとしたが、最後まで言わなかった。言ったら惨めになる。
「聞いてよ、アズ」
 武器を肩に担ぎながら、双子の兄が眉を寄せた。
「この人たち、俺左手に武器持ってんのにわざわざ左側から攻撃してきたんだ。そんな人、百六十年生きてきて初めて見たよ」
「息するように嘘をつくな」
「仕方ないでしょ。アズと違って俺は口から生まれてきたからね」
 二人は武器の血を拭きながら、複雑に入り組んだコブレンの裏道へと引き上げていった。
 長い階段坂を上る。
 この坂の上にある広場で、雪に刻まれた二人の殺戮者の足跡は、市民たちの足跡に紛れるだろう。
 歌いながら戦い、今また長い坂を上るせいで、トビィの喉からヒュー、ヒュー、という音がし始めた。気がかりで、全く気に入らない音だった。
「トビィ、凄かった」
「何が?」
 ヒュー、ヒュー。
「一人で三体の動きを止められると思わなかったんだ。奴らの歌は調和していた。他の歌が上塗りできないと思うほど完璧に」
「人間技じゃないって?」
 喉の音が強くなり、引き換えに声が掠れる。
「俺は人間じゃないわけじゃないよ。一回死んだだけ」
「そんなことを言わないでくれ」
 トビィは微笑むことによって、アズの悲しみを深くした。


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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